真理を追究する者
□ドラゴンの谷を目指せ!
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カタート山脈のふもとの村にたどり着いたあたしたち。
こっからついに、伝説の竜の住む峰、ドラゴンズ・ピークへ!
……と、いきたいところだったけど……
「どう?ゼロス、何かわかった?」
あたしは村で一番高い建物の上から景色を見渡していた神官に声をかけた。
「ええ、まあ」
ゼロスは屋根から降り、いつもの笑みに険しい色を混ぜる。
「この村の前方にそびえる巨大な山々がカタート山脈なのは見ての通りで……問題はそこにたどり着くまでの密林ですねえ」
「どうして?」
「もう何百年も人の手が入った様子がなくて……先へ進もうにも、完璧に自然の迷路と化しています」
「自然の〜?」
ああもう、何の法則も持たないで偶然できた迷路って厄介なのよね〜……
「なあ、ノウンはどこなんだ?」
「そうだな。あいつの神眼なら何かわかるんじゃないか?」
ガウリイとゼルの意見に、ゼロスは困ったように肩をすくめて、
「いやあ、神眼では迷路の構造把握は無理ですよ。精神世界面を直接見られるだけですので」
「あいつの術の中に『クエスト』ってあったじゃない。あれは?」
「顕微鏡で月を見ようとするのと同じです。細かいものなら解析可能ですが、こんな広大な迷路となると」
「あっそ。で、ノウンどこなの」
「古本屋に行ってます。おそらく古い文献から見つけようとしているのでは?」
「それじゃ自然にできた迷路は分かんないわよね……」
ため息交じりのあたしの言葉に、アメリアが。
「するとやっぱり、誰か地元の人で森の道に詳しい人が必要ってことですね」
「地元の人って言ってもねー……」
呟きながら、人通りの全くない、ただ建物が並ぶだけの村を見回す……この村にそんな気の利いた人がいるか?
「しかし、こんなところでぐずぐずしていても始まらん。とりあえず行けるところまで行ってみよう」
「……そーだねー……」
げんなりするあたしが、歩くゼルの後ろを追いかける。
その時――
「ノウンさん……古本屋にいないと思ったら、何してるんです?」
「あ、ゼロス……怖がらせないようにそっと近づいたら、一気にもふもふ天国に……」
「思いっきり噛みつかれてますけど……ほら、しっしっ」
フードを貫通した牙で傷ついたのか、頭から血を流すノウン。
動物には逃げられまくるので、関わる時には注意して近づくか伝心(コネクト)して意思疎通を図るのだが……
「あの子たち超積極的。久しぶりに術を使わずに動物と触れ合えたの〜」
「傍目からは完全に襲われているようにしか見えませんでしたけどね」
おそらくあの犬たちはノウンを本能的に危険人物と思い込み、撃退しようと噛みついたのだろう。
当の本人はそんなことなど露ほども考えず、「向こうから遊びに来てくれた」となごみ顔で去っていく犬たちを見送っている。
「やれやれ……それでなんですけど、とりあえずリナさんたちと合流しましょう。この先は自然の迷路になっているようで、文献では把握できないかと」
「そうなんだ。参考になりそうな本はなかったよ。なんか野焼きとか炭焼きの本に登山のコツみたいなのは書いてたけど」
「そんなもの役に立ちませんよ。というか、なんでそのジャンルの本にそんなことが?」
「さあ。執筆者の趣味じゃない?」
起き上がったノウンは適当にハンカチで血を拭い、ゼロスの指し示す方向に足を進める。
通行人とまったくすれ違わないため、ノウンは呪文を使わず無防備に本を閉じたままだ。
「この村、眼除けしなくていいから楽」
「もう少しリナさん以外の人との交流もあっていいと思うんですけどね」
「魔族のゼロスに言われるってどうなんだろ」
「自覚してくださいね」
ぽてぽて歩いていくうちに、村の端にある家の前に到着。
――民家?
きょとんとするノウンだったが――近づいて、ようやく気が付いた。
あの家の中にいる、いるはずのない人物の存在に。
「さ、入りましょう」
「…………」
すいっと目を細めたノウンは……家から離れ、向かいの木の下に座った。
「ノウンさん?」
「……ここにいる。ゼロスは入って」
「あ、やっぱり気が付きましたか。ノウンさんがここにいるなら、僕もいますよ」
彼はノウンのすぐ横に座る。
少し前だったら、もっと離れていただろう距離。
「何しに来たの?あの子」
「さあ、何しに来たんでしょうね」
「……まあ、だいたい察しはつくけどね」
少女は、若干ぶすっとした調子でゼロスに目を向ける。
「道案内、じゃない?」
「……そうですね。そう考えるのが妥当でしょうね」
にこやかに頷く彼。
――さすがに怪しんでいらっしゃいますね。
それはそうだろう。何の脈絡もなく上司が現れたのだから。
そこを気にしないほど無神経ではなかったらしい。
「でも前から言っていますよね。計画について僕はフィーさんから聞いてないんですよ」
「……ふーん。まあ、言わなくていいけど」
呟き、彼女はここのところお天気続きだった空を見上げて、風の音に耳を傾ける。