真理を追究する者

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「お、お前は一体……!」


震える声に答えるのは、感情のない言葉。


「すべての闇の母。在りし日の姿に帰るを夢見続ける者。闇よりもなお暗き存在。夜よりも深き存在。混沌の海。すべての混沌を生み出せし者……汝らは我をこう呼ぶ。すなわち、ロード・オブ・ナイトメアと」


ヘルマスターの悲鳴が木霊した。








――その数秒後。

フィブリゾの術によってクリスタルに閉じ込められていた身体が、虚空へと放り出される。

見計らって戻ってきていたゼロスは、その身体をそっと受け止めた。


「ノウンさん!」


身体に穴は開いたまま。

しかし出血は止まっているように見えた。


「ノウンさん、起きて下さい、ノウンさん」


――それもそのはずだ。

空気を吸う音も、心臓の鼓動も、その身体からは一切聞こえてこない。


「…………」


――死んでいる。


目の前にあるのは、ただの屍。


認識した直後――グア、とゼロスの内側でずっと響き続けている声が大きくなった。



――死んだ。死んだ。死んでいるんだ。

――滅びを望む種族が、屍ごときに何を思う。

――自分以外などどうでもいい。

――捨て置け。そんなもの、空っぽの器にすぎないのだから――




「…………」


――あれから、また考える時間だけがあった。

リナたちの動向を眺めつつ……時々あの部屋に行って、クリスタルに浮かぶ影を見つめる。

彼女の本も、ずっと抱えたまま。


――どうして彼女を見てしまうのだろうか。


もしかしたら……と思ってるわけではないのは、一番よくわかっている。

期待しているわけじゃない。死ぬ瞬間を見ようとしていたわけでもない。

……そもそも、どうして彼女を死なせたくないと思ってしまったのだろう。

ずっと、この手で彼女を殺すのを楽しみにしていたはずなのに。

いざその瞬間が訪れたら、今度は蘇生しようと躍起になっていて。

何度も何度も考えては答えが出ないことに辟易する……でも、やっぱり考えてしまう。

……結局、彼女が生きようが死のうが、フィブリゾの計画が成功したら同じなのに。

世界が滅び、すべてが無に帰すのであれば……どうせみんな滅びてしまうなら……そんなこと、もうどうでも――


――『それともあなた方魔族は、原因はともかく結果だけ得られればどうでもいいと――』


…………


――『我が力こそ、我が意志』


……………………


いや、と頭を振る。

彼の計画は失敗したのだ。

だから戻ってきて、少女の安否を確かめ――こうして、彼女の身体を持ち上げている。


――知りたい、と思った。


彼女の願い、望み……その『意志』の向かう方向がどこだったのか。

魔竜王ガーヴが、彼女の最後に何を見たのか。

知ればすべての答えを得られる……そんな確信だけがあった。


「申し訳ありませんね、ノウンさん」


いつも以上に軽くなってしまったそれに、ふっと自虐的な笑みをこぼして、


「僕は魔族……自分勝手な種族なんですよ」


虚空を渡って、消える。
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