真理を追究する者

□炎を吐かなきゃ煙は立たぬ?
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――時間とともに日が陰り、砂漠の気温は下がっていく。

フィリアを先頭に歩くあたしたちは、火竜王の神殿に向かっていた。

逆恨み魔族や正体不明の大男と交戦し、しょーじき疲れていたあたしたちに、


「――今日はここで野宿ね」

「ええっ!?そんな!」


フィリアが声を張り上げた。


「わかってるんですか!?私たちは一刻も早く火竜王様の神殿に向かわなければならないんですよ!?こんなところで、しかも!」


そしてびしぃっ!とまっすぐ伸ばした指先をゼロスに向ける。


「こんな魔族の近くで暢気に野宿だなんて!到底考えられません!!」

「そこはしょーがないじゃない。ゼロスが勝手についてくんだから」

「もう真っ暗ですし、夜道を歩くのは危ないですよ。寝不足はお肌の大敵とも言いますし」

「いーこと言ったアメリア!とゆーわけで、ご飯ご飯っ♪」

「ちょ、皆さん!?」


世界の危機だのなんだのよりも、エネルギーなくっちゃ動けないっつの。

明かり(ライティング)の周りに座って食料を取り出し始めるあたしたち。

ゼロスも同じく座るのを見てフィリアも諦めたらしく、渋々といった様子で座り込んだ。

おかっぱ魔族の背中には、いまだ寝息を立て続けるノウンが。


「ゼロスさん、ノウンさん起こさないんですか?」

「大丈夫ですよ。もうすぐ起きますから」

「そうなの?」


いつも一度寝たら起こすまで起きないはずだけど。特に日が落ちてからは。

と思った矢先――パチリと目を開けるノウン。


「お、本当だ。ノウンも飯食うか?」

「喉、大丈夫ですか?」

「…………」


下ろされたノウンはガウリイとアメリアの声に答えず……まあ、喉潰れてんだから仕方ないけど。

眠たそうに、けだるそうに、瞼を閉じたまま荷物を漁る。

のたのたと取り出した本を、横からゼロスに取り上げられた。

それを猛然とにらみつけるフィリアに続き、ノウンもわずかに顔をしかめる。


「……っ」

「その状態では完全には回復できないんでしょう?『承認―――――』」


ああ、例の起動呪文か……前より詠唱が長い気がするが……

瞬間、本が輝きながらパカッと開き、中から現れた魔法陣と同じくノウンの身体も光に包まれた。


「――はぁ〜、やっと楽できます〜」


天使の姿に変身したノウンが、う〜んと背中と羽を伸ばしながら大きく息を吐いた。

髪も肌も真っ白になって……胸元のブローチだけ黒いのが気になる程度で、ダメージを受けた形跡もきれいさっぱり消えている。

すっかり見慣れた神々しい姿に、ゼロスも息を吐きながら苦言を漏らす。


「さっきまでずっと寝ていた人のセリフとは思えませんねえ」

「仕方ないじゃないですか。呼吸できなくて入眠も四苦八苦な状況だったんですよ?そのおかげで魔力の吸収量も少なかったでしょう?」

「少なくなっただけで吸われることは変わらなかったんですけど」

「嫌なら置いていけばよかったのに、律義なんだからゼロスったら❤」


にっこり笑うノウンに、ゼロスは大きくため息を吐いて黙ってしまう。

ゼロスのこういう顔、ノウンの前でしか見られないから貴重よね。特に見たいとも思わないけど。


「あれ、回復魔法使わないんですか?その姿になるだけで結構消耗するって……」

「ああ見えて結構痛かったんですよ。それに呼吸困難もありましたから、あの状態では集中して治療に専念できません。この姿になれば確かに消耗しますが、肉体を治療することは可能です。それに、魔法陣が呪文の代わりになるとはいえ、『力ある言葉』は必須でして。普通の魔導士同様、声が出せないと術が発動できないのですよ」

「へー、大変だったんだな、さっきまでのノウンは」


……ちゃんとわかってんだろーか、この脳みそくらげは。


「呼吸困難って、じゃあさっきまでどーやって息してたのよ?」

「…………皮膚呼吸?」


なんじゃそら。

返された本をニコニコ抱えるノウンに――ずいと近づいたのは、フィリア。


「……ノウンさん、その姿は……」


ヴァルガーヴとの交戦中気絶していたフィリアは、目を丸くしてノウンの姿を凝視する。

そうか、この状態のノウンは精神生命体。つまりゼロスと似たり寄ったりの気配がするはず。ゼロスの魔力を吸収してるんだし、なおさらかも。


「大丈夫よフィリア、ノウンは魔族じゃなくて……なんていうか……」

「あ、はい、それはわかります」

「へ?」

「魔族の気配がしませんから……むしろ、神聖な気配がします」


神聖な……?ノウンから?まぢで?

思わずゼルたちと顔を見合わせたりするあたしたちに気づかず、フィリアは困惑した表情で天使におずおずと口を開く。


「ノウンさん……あなたは、何者なんですか?」


一方のノウンは、フィリアの反応が意外だったのか、ぱちくりと瞬き。

その様子をのぞき込むゼロスの横で、考えるように視線を虚空にさまよわせた。
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