真理を追究する者

□千変万化に変わる世界
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「ねえフィリア……」

「いけません!」


食い下がるあたしに、フィリアは聞く耳持たぬと勢いよく顔をそむけた。


神殿に向かう道中に立ち寄った町でのこと。

夕食の時間大きく過ぎてんだし、野宿も背中痛くなるからあんまししたくないんだけどなー……なんて提案していたのだが。

実質あたしたちのサイフであるフィリアが、前回の町の事で機嫌を損ねていて、ご飯すんだらさっさと去りたいと態度に出てるのなんの。

しかも大暴れの元凶が、素知らぬ顔で後ろをてこてこついてきてるもんだから……一日中ギスギスした空気が抜けなくて。

で、この歩き詰めである。体力的にも精神的にもゆっくりしたいとゆーのは人間のサガ。

しかもこの町、温泉の名所として有名らしく……まあ、ここまで言ったら何を主張してるのか、だいたいの人は分かるだろう。


「いーじゃないですか一泊くらい。人生、心のゆとりは大事ですよ」

「そうそう!」


アメリアとガウリイが指さす先――温泉宿を、しかしフィリアは視界にも入れたくないと反対方向を向いたままだ。


「もうっ!早く神殿に行かなくてはいけないというのに、あなたたちときたら……!いいですか皆さん!今こうしている間にも、ヴァルガーヴたち魔族が何を企んでいるかわからないんですよ!?こんなところで悠長に宿なんて、事の重大さが分かってるんですかっ!?」

「そんなこと言ったって、お腹がすいては戦なんかできないでしょー」

「そこを何とか頑張る気概はないんですか!それに食費はお約束しましたけど、宿泊費なんか出せません!私のフトコロ事情も少しは考えて下さい!」

「えー、ケチンボ」


あーあ、せっかくの温泉宿……と嘆息した時。

服の裾をちょいちょいと引っ張られ。

いつの間にか近づいていたノウンが、ぴんと親指を真上に立てていた。


「リナ、宿とれたよ。シングル六人分」

「え!?ちょっと、誰がお金を出すと――」

「心配ない。私が出す」

『へ?』


一同のすっとんきょうな声に、何驚いてんのかと小首を傾げてノウン。


「だって私、結界の外に出て数週間経ってるんだよ。外の世界のお金だってちゃんと工面してるし、何より私金銭面に関してはチート級だからね」

「あ、そっか……あんた、研究費とか言ってかなりの額持ってたっけ」


以前に比べてかなり軽装備になってるからすっかり忘れてたけど……外の世界にしばらくいたんだったら、そりゃ金なんかもちろん持ってるか。


「おや、ノウンさんが他人のためにお金を出すなんて」

「私だって三日に一度は宿でゆっくりしたいの。早く入ろう」

「よっしゃでかしたノウン!さぁーて飯だ飯だ――♪」

「お――!」

「あっ……もう、リナさぁん!!」


もうあたしたちを止められるものなどなかった。

飯と温泉が、あたしたちを待ってるのよ!







渋々フィリアも宿に入ると、リナたちはすでに席についてメニューを眺めていた。

当たり前のように四人から離れた席に座る二人組を見つけ、肩を怒らせながら近づいていく。


「ノウンさん!リナさんたちを巻き込まないでください!私たちに関係ないって言いながらちゃっかり一緒にいて、何がしたいんですか!」

「ゼロスがリナといたいって言うから」

「いやあ、僕の仕事はリナさんたちがいないと務まらないものでして」


ちっとも申し訳なくなさそうな二人の着く席にフィリアも座る。


「これで何か大惨事が起きても、私は知りませんからね!ヴァルガーヴの手下が襲ってくるとか、ヴァルガーヴが世界を破滅させるための何かをするとか!」

「ありえなくはないと思うよ」

「だったら!」

「けどねえフィリア」


本を広げながら、おっとりした態度で言葉を続ける。


「物事の因果って、だいたい決まってるから」

「……どういうことですか?」


ゼロスがニコニコしながら置いたトランプをつまみ上げて。


「ヴァルガーヴの目的は、今のところリナの命と光の剣。まあ、本人が動かず手下が動いてるのを見る限り、今はもう一つの用事をしてることは推測できるね」

「もう一つの用事?」

「うん――光の剣と同等かそれ以上と言われている武器の捜索」


手札の何枚かを場に伏せ、山から新たにトランプを引く。


「どのくらい前からそれを探してるのかはわからないけど、そんな砂漠で落とした針を見つけるくらい途方もないことを、今日明日で見つけられるとは到底思えない」

「そ、そんな砂漠とか……」

「同レベルだよ。リナも言ってたけど、光の剣みたいな強力で得体のしれない武器がそこら辺に転がってるなら、数週間外にいた私の耳にも入ってるし……何より、仮に光の剣より強い武器なら、危なっかしいだろうし封印されてる可能性が高い。勝負?」


ゼロスは笑って手札をオープンし、


「フルハウスです」

「はいストレート・フラッシュ。私の勝ち」


――直後に顔を引きつらせ、がっくり項垂れた。
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