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□第三章
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女の部屋までは、結構な時間がかかった。

近道らしく大通りを絶対に通ろうとしないのでガラの悪い連中とたびたび遭遇し、女が有無を言わせずコテンパンに伸していると、着く頃には日が暮れかかっていた。

高級マンションの最上階までエレベーターを動かし、降りたすぐ真正面の扉に立つ。

「最上階が丸々一部屋になってるのか」

「姉ちゃん、金持ちなのか?」

「空いていたから勝手に使ってるだけだ。管理人もいないしな」

カードキーを滑らせると、小さく電子音が響き、扉のロックが解除される。

中に入るやいなや、玄関の奥に男が一人立っているのが見えた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

前髪を一様に左へ流している、白ぶちメガネの執事だった。

容姿端麗でいかにもインテリな風貌の男だったが――人間にはあるはずのないものを見て、青葉と紅葉は目を見開いて固まった。

「え、なんか生えてる」

「耳としっぽ?」

男は二人を一瞥し、広々としたリビングにあるソファーにゆったり腰かける女に話しかけた。

「お嬢様、この貧弱そうな男共はなんですか」

「これから私の部下になる奴らだ。そいつらの携帯を『変換』して来い。その後紅茶もな」

「かしこまりました」

執事は女に一礼し、二人に向き合う。

「通信機を出してください」

言われたとおりにすると、執事は二人の携帯を持って無駄のない動きでとある一室に入っていってしまった。

それを見届けて女に歩み寄る二人。

「誰?執事?」

「私のガイドだ。ロイドという」

「ガイド?って、あの変なスライムみたいなあれ!?」

直後、どこからともなく赤と緑のスライムが出現した。

『ちょっと!変なスライムってなんですか!私扱い酷くないですか!?』

「あれ、携帯の近くにしかいられないんじゃなかったの?」

『よくわかんないですけど、執事の人がパソコンに繋いだり操作したりしたら動ける範囲が広がってですね……』

「この世界パソコンもあるんだ」

「聞いてたのかよ面倒くせえな」

『面倒くさいってなんですか!二度とガイドしてやりませんから!』

そこに女が割って入る。

「今度からしなくていい。私がいればガイドの意味なんてないからな」

『ええっ!?』

「そいつは質問したことしか喋らん上に、プレーヤーにこの世界のことを悟られないようにするための誘導トラップだから、邪魔以外の何物でもない」

『私たちの存在意義がっ!?ていうか初めて知りました!』

アワアワ蠢くスライムを見て、冷静に今の言葉を分析する青葉。

――やっぱりこの人、ガイドの知らないことも知ってるのか。

女の向かい側に座り、女に再三質問をぶつける。

「それじゃあ聞かせてくれる?この世界について。元の世界に帰る方法もね」

紅葉も座り、女の言葉を待つ。

二人を交互に見やった女は、

「いいだろう。お前たちに、特別にこの世界の概要を教えてやる」

そう言って、足を組み替えた。
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