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□第五章
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「はあ……」
青葉は外に出ていた。
あの後紅葉とともに白銀と口論になったが、なんとか向こうが折れてくれた。
――『そこまで言うならお前らで何とかして見せろ。ただし今日中にだ。できなければ容赦なく殺す。わかったな?』
そう言って、白銀はどこかへ去ってしまった。
おそらく他を見て回っているのだろうが、そこでも誰かを殺しているのだろうか。
そんなことを悶々と考えつつ、青葉は一人、細道をぶらぶら歩いている。
紅葉はというと、少女が気になるのか「一緒にいるよ」と気分転換を拒否した。
――しかし、どうしたものか……。
イジメの自殺という話だったが、どうしたら立ち直ってくれるかはさっぱりである。
大体イジメの原因も少女がターゲットにされている理由も知らないのだから、策の立てようもない。
ほとんど思考停止のままトボトボと当てもなくさまよっていた青葉。
しかし、
――――ガタン、ゴトッ
その音に足を止めた。
前を見ると、自販機から缶ジュースを取り出している人影が。
青葉には、その人影がパッと見男か女かわからなかった。
細身に紫の、しかも悪魔をモチーフにした角と翼を付けたパーカーを纏っていて、顔が見えないようにフードをかぶっていたからだ。
しかし長すぎる白い髪が胸元まで垂れていて、それを大きく赤いリボンで結わえている。
――女の……人?
青葉はそう思ったが、人影の発する声でそれが間違いだと気付いた。
「やあ、暗い顔をしているね。嫌なことでもあったのかな?」
「え、いや……」
「それとも気分が悪いのかい?それはいけないな」
とても爽やかな声は、明らかに男のものだった。
戸惑う青葉に、男は缶ジュースを押し付ける。
その時見えた男の顔は若かった。
だが顔の右半分は多すぎるクセ毛に覆い隠されている上、見えた左目の下はいびつな三角形を二つ組み合わせた、まるで砂時計のような奇妙なタトゥーが施してある。
瞳の色は鮮やかな黄緑色で、悪魔のイメージにまったく合わない。
思わず缶ジュースを受け取ると、彼は再び自販機に向かい、小銭を入れずにボタンを押した。
先刻と同じ音が響き、男は現れた缶を開けて少し飲む。
「…………」
不思議そうな顔の青葉に、再び男は問いかけた。
「君は、あの天使の子と一緒にいたよね」
「天使?……ああ、白銀のことか。あいつを知ってるのか?」
「白銀というのか、あの子は。……いや、実際に会って話したことはないんだけどね、ここに住む者なら大抵は知ってるよ。ときどき空を飛んでるから」
「なるほどね……」
青葉も缶の中身をすする。
「君も死にたいって思ったからここに?」
「さあ、どうだろうね」
「わからないのか?」
「それもどうだろう。ただ、この世界の外にボクの居場所がないというのはわかる」
「どうして?」
「ないからだよ。文字通り、存在しないのさ。君はどうだい?居場所、あるのかい?」
「いや、ないわけじゃないけど……」
すると、今度は男の方が不思議そうな顔をした。
「あるのにここに来たの?それはレアなケースだね」
「そうなの?」
「あたりまえだよ。自殺したくてこの世界に来る人はね、大概居場所を失って世界に絶望したから自ら死を選ぶ。君みたいな恵まれているのにそれでも死を渇望する人なんて、片手で数えられる程度しかいないんじゃないかな」
「俺だけではないんだね。他にもいるのか」
「君しかいなかったとしても、片手で数えられるだろう?」
「……あ、うん、そうだね」
どうにもペースが乱れる。
目を点にする青葉の横で、男は何かに納得するようにコクコク頷いた。
「でもそうか。君みたいな人だから、白銀という子は殺さずに傍に置いているのかもね」
「?そうなのかな、一日一緒にいたけど、俺はあいつのこと全然わからないよ」
「一緒にいてわからないことも、離れているけどなんとなくわかることも、生きてるうちはよくあることだよ。ちょうど、あの引きこもってる女の子のようにね」
「引きこもってる……え、あの子と会ったことあるの!?」
唐突に聞かされた重要な単語に、思わず食いついてしまう青葉。
しかし男は平然と缶ジュースをユラユラ揺らすだけ。
「一回外に出てきたことがあって、その時だけ少しお話をしたんだ」
「何か言ってなかった?元の世界のこととか、あの子自身のこととか」
「ん?教えてもいいけど……」
男は缶の中身を一気に飲み干し、青葉にまっすぐ向き合った。
「彼女、死にたいって言ってるんでしょ?死なせてあげた方がよくないかな?なんでわざわざ助けようとするの?」
「なんでって……」
「君は死にたくてこの世界に来た……というより自殺サイトを頼ったんだよね?彼女だってそうさ。なのに君自身は死んでもよくて、彼女は死んじゃダメなの?」
「白銀にも言われた。でもそれは殺人がダメだっていう話で……」
「どっちにしろ死ねば結果は同じだよ。そんな理由で死んじゃダメっていうのは、ただの君のエゴにすぎないんじゃないかな。しかも死のうとしてる人間が他人の自殺を止めようなんて、変な話」