A SITE FOR SUICIDE

□第六章
1ページ/9ページ



『――…………――――……』

声が聞こえる。

暗い視界の中、声だけが、まるで電波の届きにくいラジオのように不鮮明に鳴り響く。

『…………の子は……葉は良い子……です。なのに……してこんな……に……』

声の主を思い出すのに時間がかかってしまった。

それほどまでに遠く、懐かしい声だったから。

――ああ、これは夢だ。

――この声は、母さんのだ。

意識のどこかで、彼はぼんやりと意識していた。

その間にも、絞り出すようなノイズ音は続く。

『青葉、目を……して……願い……帰ってきて――――』



ブツンという音が頭を遮った。

同時に視界が開ける。

白い天井と見慣れた照明が、朝日に照らされているのが目に入った。

「…………」

いつもの気だるい目覚めではなく、目も頭もはっきりしている。

天井を見つめながら、青葉は先刻の夢を反芻した。

――なんだったんだろう、さっきの夢。

不鮮明に聞き取った声は、彼のよく知る母親のものではなかった。

――『帰ってきて』なんて……家出とかしたことあるけど、言われたことないのに。

――それにちょっと金縛りのような感覚があったような……。

――いや、今もある。

考えながら、主に動かせない左腕を見てみると――

自分の幼馴染みが左半身に抱き着き、涎を垂らして幸せそうに寝息を立てているのが見え、

「……ッ!!」

それを認識した直後、彼はそのこめかみに強烈な肘鉄を食らわせた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ