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□第九章
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――この世界には、太陽も月も存在しない。
「なのに空が白むなんて、変な感じ」
一定の小さな揺れを感じつつ、彼は大きめのクッションを抱えてポテトチップスをほおばっている。
彼の前には無数のモニターが浮かんでおり、それぞれの画面でニュースや動画サイト、時代劇やアニメなどが映し出され、混沌とした音を響かせていた。
しかし彼はそのすべてを聞き取れているようで、歓声が上がったタイミングの番組に合わせて時折笑い声を発している。
まるで休日のOLのようだが、悪魔パーカーを着ているからか、不思議と違和感がない。
「これも美味しいなー。コンビニっていろんなものが置いてあるから面白い。次は何を食べようかな」
早々に袋を空にした男は、近くに転がっていたカップラーメンのふたを開け、そのままバリバリと食べ始める。
「うーん?これは美味しくないな……あ、そうか、この袋の中身と一緒に食べればいいんだね」
言って、まずは袋の中身そのものを味わい――衝撃にひっくり返った。
「ぅあっ!ゲハッ、ゴホッ……うえ、なにこれ、舌がすごく痛いよー」
涙目になりゴロゴロと転がりまわる男は――聞き慣れない音を聞き、舌を出して空中に手を突き出す。
すると掌の先に新たなモニターが現れ、黒の画面に白い文字を浮かび上がらせた。
『たった一日で、帰還者が50人を超えている』
一日とは、向こうの世界の時間だろう。
ということは、こちらの一か月ということで。
「……あーあ、気付いちゃったか」
呟き、彼は先刻以上に口元を吊り上げる。
見るものに寒気を覚えさせる笑みを浮かべたまま、むくりと起きあがった。
「ということは……近いうちに、ヤバくなりそう」
焦った様子のない声で、男は大きく伸びをしながらつぶやく。
「頑張ってね、カイ」
――次はどんな面白いことが起きるのかな、と他人事に空想しながら。