A SITE FOR SUICIDE

□第十一章
1ページ/14ページ




彼は、暗闇の中で目を醒ました。

しかし目を開けたという感覚も、体があるという感覚もない。

目の前にも暗闇しか存在せず、彼は自分に意識があることに気が付けなかった。

さらに言うなら――彼は、自分が誰か、ここがどこか、周りに誰かいるのか、言語がわかるのか、知覚できなかったのだ。

まるで深海のような、深い闇の中をゆっくり漂っている感覚が、彼を包み込んでいる。

そんな彼の目の前に、突如として文字が浮かび上がる。

『見えているか?』

眩しさは感じなかった。

その文字の意味も理解できた。

彼が返事をする前に、続けざまに文字が視界を埋める。

『お前は私が生み出した存在だ』

『だからお前に拒否権も決定権もない』

『私の言うことに逆らうこともできない』

淡々とした、何の感情もこもらない文字列を、目で追っていく。

『お前に世界を与える』

『その世界でお前が何をしようと構わない』

『ただし、一ヶ月に一度、必ず報告をすること』

『内容は、些細なことでも構わない』

『帰還者の有無は必ず報告するように』

『世界については、見たらすぐわかる』

明らかに説明が足りない内容。

最後に『わかったな?』と確認の文字が出る。

逆上してもおかしくない言葉の羅列であるが、彼にはわからない。

そもそも、彼は感情というものがわからないのだ。

怒りも悲しみも、そういった感情を抱いたとして、彼には理解ができない。

「…………」

声を出す代わりに、彼は体のどこかを動かす。

すると、目の前の文字が、色違いで追加された。

『>>YES.』

直後、彼にとてつもない重力がかかる。

「……ッ!!」

視界が急速にブレ、光が見えたと思ったら色の点滅が始まった。

同時に落下か浮遊かわからない圧力が、上下左右に体を持って行かれる感覚が彼を襲う。

まるで内側がカラフルな箱に押し込められ、それを勢いよく振られているようだった。

延々続くかと思われた衝撃は、突如終わりを迎える。

「……!」

ゴーン、という音に気が付くと、彼は地面に立っていた。

足元から鈍く伝わる一定の振動と、殺風景な白と青の空間。

その景色を正しく認識する前に、目の前に再び文字が浮かんだ。

『≪新世界≫へ ようこそ』

と、ただそれだけの短い一文が。

「…………」

しかし彼にその文字を見る余裕はなかった。

足元からの揺れと、初めて地面に立った感覚に、頭が付いていけなかったのだ。

彼は無言のまま、自分の体が傾いていくのを感じないまま、白い大地にヘッドバッドをしたのだった。

それが、彼が初めて体験した『痛み』であった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ