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□第二章
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『――≪新世界≫へ、ようこそ〜!』
耳元からそんな声が聞こえ、青葉はバチッと目を開けた。
灰色の室内が目に飛び込む。
「…………」
――あれ、ここどこだ?
彼は暫く黙って天井を見つめながら、先刻までのことを思い出そうとする。
――確か、『自殺アプリ』を開いて……いや、開いたっけ?
どうも頭蓋骨が軋むように痛い。
起き上がって頭をさすり、頭の中で解釈する。
――そうだよな、開くだけで死ねるアプリなんてあるわけない。
――じゃあ、さっきのはすべて……
「夢……だったのか?」
今度の問いには、答える者がいた。
『夢ではないですよ、ご主人?』
ギクッとして声の方を向くと、目の前に浮遊しながら時々グニャグニャ変形する正体不明の赤色のスライムが。
思わず飛び起きる。
「うわあぁ!?なんだお前!」
『≪新世界≫のガイドでーす。名前はないので、好きなように呼んでください』
「≪新世界≫……?え、ここが?」
『はいその通り。窓の外を見ればわかると思いますよ。ご主人がいた、元の世界と違うというのは』
スライムから腕のようなものが生え、しきりに右の方を指し示す。
――気持ち悪いな、こいつ。
顔をひきつらせながら指された方を見ると、カーテンのない大窓があった。
無機質な灰色のビルと、青い空に張り付く巨大な文字盤が見える。
「時計?なんであんなところに」
『あれが現在の時刻です』
「いや、それはなんとなくわかる……って、あれ?確かさっきは4時を過ぎてたような……」
紅葉の家に行ったのは学校が終わったすぐ後、大体4時半くらいだったろうか。
それなのに空に浮かぶ時計は午後にすらなっていない。
『さっき?』
「ああ、紅葉の家に連行されて……あ!」
そこでようやく友人の顔を思い出す。
――『ついでに横にいる可愛い子も一緒に招待しちゃいますね☆』
あの自称番犬少女は確かにそう言った。
「紅葉!あの番犬女、紅葉も連れて行くって……来てるんだよな?」
『ご主人と一緒に来た人ですか?隣の部屋にいますよ』
「隣ってどっち」
『出て右の部屋にいますよ』
「そっか」
ベッドから降りて部屋を出ようとする青葉に、スライムはちょっと慌てた声を上げる。
『あ、ご主人』
「何?」
『これ持ってってください。でないと私動けないので』
スライムが部屋の中央にあるちゃぶ台にスススと寄っていく。
そこに折り畳み式の真っ黒な機械が、開いたまま置いてあった。