落書き

□復讐と逃走(後)
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※前編の続きです。まずそちらをご覧下さい。

 あといきなり知らない人の名前出てきた!って思った方は原作を見て下さい。

(素直に紹介めんどいって言えないお年頃←)








『…………』


男と少女は、疲れた顔で黙り込んでいた。

同時に「どうしてこうなった」と脳内に反響させながら。


男は顔面に包帯を巻いており、フードを被っていた。

少女は黒を基調としたドレスに身を包んでおり、片腕がなかった。

二人は目の前に積み上がっている瓦礫の山を呆然と見上げている。


「……だああくっそ!何がどうなってやがんだよ!」


最初に口を開いたのは男――ザックだった。

フードの上からガシガシと頭をかき混ぜ、苛立たしげに声を荒げる。


「またしても……またしてもわたくしは落とされたのですわ……」


少女――ノエルの方も、ふつふつと湧き上がる怒りに拳を震わせた。


「シビラだけにならまだしも、あのオカマの人にまで落とされるなんて……!というか元はといえばあなたがわたくしをジーノ管理官に突き出したのがいけないのではなくて!?」

「ああ?」


突然の理不尽な物言いに、ザックは顔を歪めて振り返る。


「わたくし達を殺して犯罪歴をなくすって、そんな都合のいいことをあの人がするわけないじゃないですの!現に裏切られて奈落の穴に落とされましたし!」

「はああ!?俺に責任押しつける気かよ手前!落とされたのはお前がいたからだろうが!」

「そもそもあなたがわたくしを観客席まで持ち上げたのが悪いんじゃないですの!繊細な乙女を宙吊りにした挙句罠に嵌めるだなんて、成人男性のすることじゃありませんわ!」

「俺は立派な成人男性だ!つーか罠に嵌めた覚えはねーよ!勝手に作ってんじゃねえ!」


堰を切ったように怒鳴り合う二人。

暗くて音がやけに反響する空間なので、頭の芯にまで響くお互いの声にさらに怒りを募らせる。


そんな中、ノエルが僅かに聞こえるザック以外の声に気がつく。

動きを止めた少女に気づいたザックは、


「ザック!」


聞き慣れた声が耳に入り、グルリと瓦礫の山を振り返った。


「レイ!無事か!?」

「うん……えっと、悪魔さんが助けてくれた」

「悪魔?おい、さっきの奴そっちにいるのかよ」


その言葉にハッとし、ノエルも続いて瓦礫に叫ぶ。


「カロン!大丈夫ですの?」

「まったく問題ない。悪魔がこの程度で傷を負ったりするわけがないだろう。そっちも……まあ、声を聞く限り大丈夫そうだな。フーゴはそっちにいないか?」

「え、ええ……フーゴは落ちなかったみたいですわね」


いつも通りの調子の渋い声に息をついたノエル。

が、その傍らで武器を構える殺人鬼に慌てて口を開く。


「ちょ、待って下さいまし!この瓦礫を崩すつもりですの!?」

「あったり前だろうが」

「少しは考えて動いて下さいまし!そんなことをしたらさらに崩れて生き埋めになりますわよ!」

「あ?」


苦言は瓦礫からも聞こえてきた。


「ザック、この山、たぶんバランスがとれてるから私達の声が聞こえるんだと思う。上の客席が全部落ちてたら、声も聞こえないくらい遠いはず」

「なんでそんなのわかるんだよ?」

「……どれくらい落ちたかわからないけど、時間的にそれほど深くはないんじゃないかな。なのに上が見えない……瓦礫の一部が蓋みたいになって上を塞いでるんだと思う。それを支えてるのがこの山なら、崩したらさらに降ってくる」


実際、鎌を一振りするだけで人一人通れるくらいの穴なら開けられるだろう。

しかしおそらくそれは一瞬だけであり、その後は支えを失った瓦礫によってぺしゃんこになることは容易に想像できる。


「……じゃあどうすんだよ。ずっとここにいるわけにはいかねえだろ」


完全には理解できていないが、自身にマイナスになることはわかったザックが鎌を下ろす。

一瞬の沈黙ののち、再び少女の凜とした声が降ってきた。


「……ねえ、ザックの後ろに道がないかな?」


振り返ると、確かに通路が続いている。


「ここ、部屋じゃなくて通路の一部みたい。どこかからの脱出に使ってたのかもしれないけど……私の後ろにもあるの。だから、そっちに行こうと思う」

「はあ?分かれて進むってことかよ」

「うん……今はそれが最善だと思う。どこに続いてるかは、わからないけど」


いつもとさして変わらない、何を考えているか読めない声に、彼は慣れているつもりだった。

しかし表情がわからない状況で言われると、自身の不安も相まってだんだんイライラしてくる。


「……お前、無事に外に出られる保障あんのかよ」
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