真理を追究する者
□ドタバタの側で1
2ページ/9ページ
「大丈夫。宿泊客がリナたちだけだったのは確認してるから」
早々に体を洗い終わったと思しきノウンが、湯船から顔だけ出して話す。
いつもの眼鏡をかけたまま、頭の頂点で髪を団子にしてまとめているが……たんこぶに見えて、お世辞にも可愛いとは言いづらい。
昼にご飯屋さんの前でゼロスとともに姿をくらましてたけど……先にチェックインしてたわけね。
「どうせ中身を見ようと触るけど、開けないとわかったら戻すだろうし」
「うぐっ……確かにそうしたけど……」
身体を丁寧に洗いながら、あたしたちはノウンに話しかける。
「目、悪いんですか?」
「ううん。これ、度は入ってない」
「じゃあ眼鏡をかける意味ないんじゃないですか?湯気で曇っちゃいそうですし」
「眼鏡はレンズをあらかじめ濡らしておけば、多少は見えにくくても曇ることはないの」
濡れた手で無遠慮にレンズをなでるノウンは、
「それにこんな目、見えない方がいいでしょ」
それが当然だろうという声色でそう告げる。
魔力が込められたものを見ることができる瞳、ということくらいしかあたしにはわからないが……おそらくあれは、魔眼の一種なのだろう。
現物で見るのは初めてだし、他に類を見ないほど珍しいものだ。
「そうですか?私はきれいで素敵だと思いますけど」
「…………」
アメリアの天然な発言に、ノウンはぷくぷくと口から泡を出すのみ。
あたしやガウリイたちはハルシフォムの屋敷であの子の目を直に見たことあるけど……アメリアは屋根裏に上がって見てなかったんだっけ。
……照れてるのかしら、あれ。
「それは置いといて……あの本、開けないけど価値ありそう!って持ってかれたらどーする気なのよ」
「その可能性があるのは魔術に長けてない連中。それがいないから普通に置いてる。そうじゃないならビニールあるし、持って入ってる」
逆に持って入らなかった理由が分かんないんだけど……重くて持ってらんないからだったら、普段も手に持ってないと思うんだけど。
「それに――いざとなったら、ゼロスが何とかしてくれるだろうし」
「ゼロスさんが?」
「一応中は暗号化してあるからちょっとやそっとじゃ読めないけど、万が一悪用されることがあったら、困るのは私もゼロスも同じ。あの中にはクレアバイブルの知識も書かれているから」
やっぱりそうか。
ゼロスが写本を燃やす理由なんて、その中の知識を使われたら困るからに決まってる。何がどう困るかなんて知らないけど。
「……そーいえばあの写本、ゼルは見る前に燃やされたのに、なんであんたは見ていいわけ?」
「そういう約束をしたから。私が先に手に入れたら見ていい。逆にゼロスが先だったら即処分。私たちはそういうチキンレースしてるの」
ふーん、別に信頼してるから、とかじゃないのね。
「で、お互いに言い合ってる。『ねえねえ、今どんな気持ち?』」
そして目尻を下げ、頭を左右に揺する。
……笑ってる、のかな……?お互いに性格悪いでやんの。
「あの中身って、本当にゼルガディスさんの知りたいことじゃなかったんですか?」
「……合成生物を元に戻す方法、だっけ?それなら書いてなかったよ」
「じゃあ何が書かれてたの?それと、あんたが収集した情報の中にそれはないの?」
「あれは私に不必要な情報だったから残してない。覚える気もなかったから、すでに忘れた。それに私もその方法知らない。知ってたらすでに試してる」
言って、衝立をちらと見るノウン。
本人がいるんだからってことか。