真理を追究する者
□ドタバタの側で2
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ほほう、この薬草は……細かくして乾燥させれば漢方薬に使える。早速収穫するの。
「あまり湖から離れないようにしてくださいね」
「わかってる。リナたちも見なきゃいけないんでしょ」
装飾と手袋を外して、愛用の軍手をはめる。
確か根っこは毒になる。研究のために持って帰ろうかな……。
「その草の根、抜かないでくださいね」
「……ちっ、知ってたか」
「あなたが前に教えてくれたんですよ。毒になるって」
「そうだっけ?」
リナには「本の中身は誰にも教えない」と言ったけど、この人あまりにしつこいから薬の知識だけは教えてるんだった。
私そんなに危険なものは作ってないはずだけどなあ。
腰のナイフでザクザク切り、虫食いがないのを確認してから袋に詰める。
それを、彼はただ見てるだけ。
――これが私たちのいつも。
手伝ってほしかったら言うくらいで、基本的にはお互い干渉しあわない。
特に自分の趣味の範囲については、彼に何かを頼むということはしない。
……穏やかな時間。
時折湖の方から大声と水しぶきの派手な音が聞こえるくらい。
まあ、たぶん向こうは大丈夫だと思うし、見に行かないことにしよう。
ドラゴン料理、か……あれって確か……。
「――そういえば、瞳についてリナさんたちに言ってないそうですね」
「……ん?」
あ、物思いにふけってたら返事遅れた。
「うん、言ってないけど……何で知ってるの?」
「この間の温泉旅館の夜、あなたが僕に気づかずに寝た後リナさんとその話をしまして」
「気づかずに……?」
「……あの、気づいていたけどあえて無視して寝たわけじゃありませんよね?」
心当たりあるようなないようなことはスパッとスルーして、
「瞳の事、なんで言わないかってこと?」
返事を待たずに歩き始める。
「魔眼って貴重なものでしょ?どこか遠くに売り飛ばされないようにしなくちゃ」
「保身のためなら、はっきり『魔眼ではない』と仰ればいい話だと思いますけど」
「説明しづらい。これは魔眼でいい。本当に人の目とは違うし、魔力を使うのは同じだから」
そしてちらりと彼の顔を盗み見て、
「というか、説明されたら困るのはゼロスでしょ?」
「…………」
おそらく彼は、あえてあの夜にリナと話をしていた。
温泉で自分が不利になるような、余計な情報を言ってないか確かめるために。
ほんの少し眉を寄せる彼には構わず、私は周囲を見回し……
おっ、あの実は。
「――階段(ジャンプ)」
一言で地を蹴り、空中に現れた魔法陣を蹴ってさらに上へと飛び上がる。
彼は浮遊(レビテーション)の一つでも使えるようになった方がいいって言うけど、いちいち呪文唱えるのが面倒だし、こっちの方がいい。
枝に着地した私は、閉じた本を頭の後ろに引っ付けて、真っ赤に熟した実がついた枝を慎重にナイフで切る。