真理を追究する者
□ドタバタの側で2
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「疑問はもうない?」
「ええ。あなたが自分の欲に忠実な方だということを再確認できましたから」
スッキリした次の瞬間に刺してくるから、本当に侮れないなあ、この人は。
「じゃあ、食べたらさっそく――」
その時、あの大きな水しぶきの音が響いた。
大きなレイクドラゴンが、船から延びる綱に噛みついている。
その背中には料理長が。
「わあ、やってるやってる」
他人事に見ていた私は、料理長の目がギラリと光るのさえ見えた。
暴れるレイクドラゴンにまたがり、包丁を首の骨と骨の間……脊髄に刺す瞬間まで、鮮明に。
ドラゴンは断末魔の叫び声をあげ……ゆっくりと、地に伏していった。
「ほほーっ、これは大したもんです!」
「出刃流星斬……だっけ。本物は初めて見た」
二人してパチパチと拍手を送っていると、
……こんっ
「いたっ」
何かが私の頭に当たり、彼の近くに落ちる。
「何?美味しい木の実?」
呟いて振り返った先の彼は――少し笑って、それを見せてくれた。
満面の笑顔で店に戻ったリナたち。
そこで初めて知らされる衝撃の事実。
ドラゴンのワイン蒸しに1か月半、ひれのスープに2か月など、フルコースを食べれるのは半年後だったのである。
ドラゴンの生命力は甘く見てはいけない。まったくもってその通り。
私は知ってたけど……先に言ったとおり、薬の原料が欲しかったからあえて黙っていた。
かくして、苦労して手に入れたドラゴンを食べることができず、リナは大泣きしながら。
それを横目に薬の材料が大量に手に入れられ、
「ドラゴンの肉は毒があるそうですね」
「……ちっ」
ドラゴンの身は没収されたけど、私は満足しながら。
一路、セイルーンへと足を進めるのだった――
「あ、そうだ総括」
「あるんですか?学んだこと」
意外そうに首を傾げる彼に、私はすっと本を開いて、
「『知らねば徒労の元。のちに知るは大損なり』……確定」
ドラゴンの調理法を知らなかったリナたちは大損をし。
クロロホルムがどういうものかを知らなかった者たちは大慌てし。
そして私の行動の意図がわからなかった彼は要らぬ疑いを私にかけ。
――過ぎてみれば、ただの茶番だった。
さらに彼が見せてくれたアレ――ロケットペンダントに入っていた写真の家族が、リナたちに本当にそっくりだったことも含めると。
「なるほど、総じて知ればなんてことない話だった、というわけですね」
「そういうこと。早めに知るのが肝心」
「……クロロホルムについては大ごとだと思いますけど」
「そうなの?」
「…………」
私は、本をぱたりと閉じたのだった。
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