真理を追究する者

□対魔族用の兵器!?
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「ふふ、あなたはなかなか動ける方のようですね」


攻撃を避けられているというのに、彼女の顔から余裕の表情は消えない。


「き、貴様は、一体……!?」


魔族にとっては、絶望的な状況。

おそらく逃げることも許さないだろう天使は、まるで悪魔のような笑みを携えて、


「私は――ノウン=ハートレス」


まるで囁くように、詠うように――


「異界の知識より生まれ堕ち、世界の救済を願われて創られた……ただの、『兵器』ですよ」


ふわりふわりと舞い踊りながら、あたしたちより離れた位置に着地した。


「――くっ!」


異形の魔族は空間を渡って消えようとするが、


「私の眼からは逃れられませんよ」


天使は剣を反転させて、今度こそ杖を持つように構えると、それを一振り。

空間がわずかに歪み――現れた白い鎖によって、魔族ががんじがらめにされる!


「ぐぉっ!?な、なんだこれは……逃げられない!?」


もがく魔族の手前、


「――借りますよゼロス」


彼女は両腕を上げ、呪を唱える。


四界の闇を統べる王

汝のかけらの縁に従い

汝らすべての力持て

我にさらなる力を与えよ



この呪文は……!

さらに輝きを増した天使が、地面に剣を突き立てる!


「暴爆呪(ブラスト・ボム)!」


彼女を中心として巨大な魔法陣が展開され、その内側が揺らぎ――マグマが噴射するように、天使ごと魔族を飲み込んだ!


ごおおおおおお!!


ものすごい轟音とともに荒れ狂う炎。

一瞬ののち、


があああああああああ!!


魔族の断末魔の悲鳴が轟く!


――すべての音と炎が収まった時には、何事もなかったように佇む天使――いや、ノウンの姿だけがあった。


「…………」


唖然としてただ立っていることしかできないあたしは、


「いやあ、お疲れさまでした、ノウンさん」


のんびりとした声で、はっと我に帰った。


「すみませんねえ、また身代わりになっていただいて。とても助かりました。あなたも随分楽しまれておられたみたいですし、対価は――」

「ね〜ぇゼロスぅ?」


ノウンの姿がかき消えたと思ったら、瞬時にゼロスの眼前に現れた。


「この私があぁんな低級でのろまな口先だけのザコ魔族数匹をせん滅した程度でぇ、随分楽しんだことになったと、本気で思っているのでしょうかぁ?」

「…………い、いえ」

「でしょ〜〜ねぇ〜〜〜〜それが解ってて対価を踏み倒そうとするなんてぇ、笑いを通り越して失笑ものなんですけどー?」


にこやかにゴリゴリと宝玉をゼロスの鳩尾に突き付けるノウン。

名乗られた後だったら彼女と分かる。

いつも真っ黒だから、いざ白くなった時同一人物とはわからなかった。


「べ、別に踏み倒そうとしてませんよ。……でもあなたも久しぶりに暴れられてスッキリしたのでは――」

「ああん?」

「すみません、対価はまたあとでお支払いしますので」

「是・非・と・も☆そうしてほしーのですよ〜。プラスに踏み倒そうとした件について精神に致命的な傷を負ったのでその慰謝料と♪合わせて……『私の言うことを何でも一つ聞く』にけってーい!」

「な、なんでも!?いや、それはちょっと……」

「そうどもらなくてもぉ、コレを借りましたしあんまり無茶なことは言わないから、ゼロスの身の安全は保障してあげるのですよ〜私ってばやっさし〜♪」

「嫌な予感しかしません……」


あと、酔っぱらった時の口調と若干似てる。

あの姿は一体……それに、『兵器』って……?


「あ、あのー、ゼロス様」


おずおずとマルチナが二人に近付く。


「お二人は兄妹……じゃ、ないんで――」

「違います♪」


食い気味に、笑顔で答えるノウン。


「さらに言うとぉ……あなたみたいな偏屈でお調子者のおマヌケさんを姉と慕う気なんかさらっさらありませんでしたので、悪しからず」

「はあ!?」

「むしろ頭の回転が速くて私の面倒を見てくれそうな、リナの方がお姉ちゃんって感じですし。ねーリナお姉ちゃん❤」


お姉ちゃんって言われるのは悪い気はしないけど、それはそれとして力強すぎ!首締まってんですけど!

あたしにべったりするノウンを見て、わなわなと震えるマルチナ。


「そ、そんな……ていうことはその女はゼロス様と赤の他人……恋のライバル!?」


そのつぶやきを耳にして、嘲り笑うノウン。

ぐぎぎと睨む視線と見下す視線が火花を散らし。

そんな二人を見て、ゼロスがふうと嘆息。

――空はすっかり、朱に染まっていた。
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