真理を追究する者
□根性の剛速球!
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白熱する言い争いの矛先が、マルチナによってあたしに向けられる。
はあ……なんでこんなのに付き合わなきゃなんないのよ。
「へんっ!なんであたしが出るって決めつけんのよ。あたしはそんなもん――」
「クレアバイブルの手掛かり!」
ゼロスがぼそりと言ったのを、ゼルが「俺が出る!」と反応。
「そんなに出たいの?」
――で、何も考えてなさそうなノウンが、彼の白塗りの顔を覗き込んで尋ねた。
「当たり前だ!クレアバイブルを探して一刻も早く――」
振り返ったゼルは、はたとノウンを見下ろして、
「そうだノウン!お前が俺と出ろ!」
「えっ?」
その言葉に、いの一番に反応したのはアメリア。
「優勝したら写本の手掛かりをつかめるんだぞ!お前だってクレアバイブルの情報を手に入れたいんだろう!?」
がっしり肩を掴まれ血走る目で詰め寄られるノウンは、事態の把握が追い付かないのか、間の抜けた表情が崩れない。
そこにゼロスが苦笑いして、
「いやあ……あの人は運動音痴ですから、まともにボールを打ち返すのもできないのでは?」
「…………」
――ほんの少し、微妙にだが……彼女の眉が動いた、気がする。
「いいよ」
『ええっ!?』
ぽんと返事をするのに、声を漏らすあたし、マルチナ、アメリアと……ゼロス。
「本当か!?」
「うん。出場するだけなら」
「そうか!これで……これでクレアバイブルは俺の手に……!」
暗く笑うゼルから解放されたノウンは、てくてくあたしたちの前まで歩いていき、
「頑張ろうね」
そう一言、呟いた。
「え……ええ!頑張りましょうねノウン!最終的にリナと戦うため、手加減なんてしてあげません事よ!そしてリナも私と勝負なさい!もっとも、あなたの勝つ見込みなんて、その胸ほどもないけどね!」
とか言って去ってったマルチナと、その言葉に感化されて特訓を始めるリナ。
見てたけど、坂を転がり落ちる岩を粉みじんにするって……あのおじさんにパートナーができない理由がわかった気がする。
根性だのなんだの言ってるけど、アレじゃあ死ぬ。リナじゃなきゃ確実に死んでる。
さすがは数多の盗賊を一掃してきただけはあるね。
「俺たちもするか!」
「やめて」
どうやらガチで言っていたらしい。あからさまに驚くゼルガディス。
「何っ!?お前クレアバイブルを手に入れたくないのか!」
気持ちはわかるけど、私は常人よりちょっと丈夫な程度でしかない。
試合に本を持ち込めないみたいだし、強化の魔術を使えないのならリナと同じコースは無理。
「……もっと他にやることあると思うよ。例えばフォーメーションとか」
「フォーメーション?」
ひとまず私の話を聞いてくれる姿勢になってくれるだけありがたい。
「たぶんこの競技、決まった立ち位置とか特にないと思うの。右前、左後ろとか、基本の型じゃなくても、要は相手に球を当てられればいいんだから」
「だが、それがやりやすいから型というものはあるんじゃないか?」
「よく考えてほしい。私たちは超初心者。大会に出るのはそれなりに経験積んでる人たちばかり。リナとマルチナだって、それぞれ精通したプロがペア。私たちは大きなハンディを抱えたままやるしかないの」
はっと息を呑むゼルガディス。
「だからこそ自分たちのやりやすい型を探して、自分流に勝ち進んでいくしかない。それに自己流ほど相手の油断を誘いやすいともいうし、びっくりさせてる隙にワンパン入れられるんじゃないかな」
「なるほど!さすがは捻じれきった思考の奴は違うな!」
「ごめん、それゼルディガスには言われたくない」
「ゼルガディスだ」
……まあ、これでリナたちと当たる前までは行けるだろうね。あとはどうなるか知らないけど。