儚くも美しいモノ。

□第一桜
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―運命に奇跡はおきるの?



『…桜』



青白い顔をし、悲しげな表情をしていても…なお輝きを失わない少女…
名を―萌愛という。



『一人で見る桜は…こんなにも儚いものなのですね……お兄様。』



懐かしむ様に萌愛は目を細めた。
一年前に離れた兄のことを思い出しているらしい。

たくさんの兄弟の中で、一番萌愛を可愛がっていた兄を―。

今は壬生浪士組…名を改め、新選組で副長をやっているらしい。

萌愛はふわりと微笑み、優雅に立ち上がった。



『お兄様に逢いたいな…』



あの日離れてからずっと萌愛は兄のことを想っていた。

それでも萌愛は心臓病でいつ死んでしまうかわからない状態だった為
逢いに行くことができなかった。



『…一年。後一年後には……萌愛はもう――』



(生きていないかもしれない。)



そう萌愛は心のなかで小さく呟いた。

萌愛を看ている先生は余命のことを隠し続けていた。
それは優しさだった。

でも萌愛には時間がないことが分かっていた。



『あ…!それなら…』



萌愛はぱっと表情を明るくさせた。

時間がないなら、今の内に叶えたいことをやればいいと考えたらしい。



(ずっと我慢していたもん…だから……)



『怒らないでね…お兄様、松本先生……』



萌愛は立ち上がり、奥の方にあった鮮やかな桃色の着物を手に取った。
たった一つだけの外出用の着物を。

慣れない着物を身にまとい…

鏡を見ながら髪を静かに綺麗に結んだ。



『あ…松本先生に文書いていこうかな……』



心配かけてはいけないと文をさらさらっと書き上げ、萌愛は文を机の上に置いた。



『今、逢いにいくね。
―トシお兄様…』



萌愛の叶えたいことは二つ。

一つは兄のそばにいること。
もう一つは恋をすること…。

その二つを叶える為に。

萌愛は静かに微笑み
外へと歩き出していった。
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