文(現パロ)
□空(政宗)
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空は同じだ。
何時のころと同じかと言われたら答えは出てこない。
高校入学祝も兼ねた旅行で親に連れられてここに来たとき、不思議と懐かしいと思った。
片方しかない目に映る光景も何もかもが初めてのはずなのに、恐ろしいくらいの既視感を心につきつけてくる。
その感覚が、この高台から見下ろした景色と俺が知っている景色とは違うと語りかけてくる。
俺が知っているのは、もっと静かで穏やかで。
その時は近くに立った誰かの名前を呼んでいたような記憶があるけれど、それすらも薄ぼんやりとしかないもの。
父に話したら「もしかしたら昔ここに居たのかも、あ、案外と同じ名前だから…御殿様だったりしてな」と笑った。
そんな非現実的なこと。と、笑いながら俺は空を見上げて流れる雲を眺めた。
遠い遠い昔に、ここに居たのなら、この口から出かかっている名前が出てきてもいいだろうに。
何度捻ってもそれは出てこない。
今度は街の観光が良いと父に話し共に車に戻ろうとして、ふと知らない間に近くに立っていた人を見上げた。
背が高いし、顔も整っていて、頬の傷が何となく懐かしい気もしたが。
懐かしい?
初対面の相手にこんな気持ちを抱いたのは初めてだった。
何となく「こんにちは」という言葉を出そうとしたが、知らない人に何を考えているのだと思い視線をそらすと、歩きだしていた父を追いかけて車まで戻ろうと走り出す。
途中振り返ると、彼もこちらを見ていた。
少しだけ驚いたように目を見開いて、その後悲しそうに目を細めた。
その一連の動作を見つめて、やはり懐かしいと心の底から思った。
「…」
軽く会釈をすると、あちらも同じく会釈をした。
不意に話しかけたいと思い立ち止まろうとしたが、後ろで父が呼んでいるのでそうもいかず、彼に背を向けた。