文(現パロ)

□空8(小政+α)
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身も心も守るためと…。

***

今日から宜しくな!

その声が聞こえたような気がして目が覚める。
5ヶ月も前の出来事がそのまま頭の中に夢となって現れた。
あの後は輝宗様の元でまた働けると言う栄誉も授かり、家に帰る前に政宗を迎えに行って、帰れば一緒に食事を作って、一緒のベッドに寝て、触れ合う身体が少しだけ困りものだったが、それも慣れて傍に居られる事だけが幸せだと感じ始める自分がいた。

隣で寝ている政宗は幸せそうな顔で寝ている。
あれから昔の夢を見ているのは確かなのだが、少しずつ自分のものにしているような感じだった。
その証拠に言葉や行動の節々にあの頃の彼が見え始めている。
行動力や決断力、不敵さも全てが全て重なり、その持ち前のカリスマ性からどうやら学校のファンも増えているらしい。
それに、周りに居る前の世からの繋がりのある人間の事も随分思い出したらしく、一時は竹中と不仲にならないか心配したが、そこは政宗、今は今と割り切るのは簡単だったらしい。
彼らしいその一面に、竹中が一番喜んでいたのは内緒にしておこう。
真田とは何度も手合わせしている間に築いた友情のお陰で、今ではすっかり大親友だ。

俺はと言えば、住まいも仕事も前の世のように政宗様の近くだ。
その仕事内容は…一部しかまだ知らない。
深い部分を見れば見るほどどこか裏社会を思わせる匂いがしないでもないのだが、織田を知っている時点で既に普通でないことぐらい覚悟済みだ。
織田はどうやら今の世も魔王の名にふさわしいほど深層部分が計り知れない闇組織の長らしく、真田があの学園に入っていないのはどうやら武田の守護があったからなのは間違いない。
毛利には長曾我部が付いているから心配がないとして、政宗を守っているのは明らかに輝宗様だ。
敢えて政宗を入学させているのは間違いない。
あの人は昔から笑顔の裏が結構深い方だから。
「いずれは…知る事になるだろうが、俺も気をつけなければな…」
「ん〜…」
「おっと」
起きてしまいそうな声が聞こえて、腕の中の政宗がうっすらと目を開ける。
少しして欠伸をした政宗はそのまま憮然とした表情をつくった。
「…お前、また人の寝顔見てたのかよ」
「そうだな何時までも見あきない」
「…アホ」
頬を染めて枕に顔を押し付けた政宗の頭を撫でて、小十郎は普通ではおかしいこの距離を政宗がどう思っているのか不意に聞きたくなってしまった。
だが、口に出そうとすればするほど恋心に繋がる事に気づいて閉口する。
喉まで出かかった愛の告白を胃の中に押し戻して、小十郎はため息を笑いに変えた。
「…政宗」
「ん〜?」
「今日は武田の所に行くのだったか」
「うん、幸村とゲーム対戦するんだ」
「二人が会うとやっぱり勝負ばかりだな」
「幸村は良いけど、長曾我部と猿飛がゲームうまいのが問題だ」
「そうか」
「毛利は将棋強いしさあ」

今ではすっかり苗字の呼び捨てでつまらないんだけど。

という佐助の言葉が思い浮かぶ。
政宗は自分がさん付けの名前呼びしていた事をすっかりひっくり返していた。
最初の可愛さこそまだ残っているが、自分が前の世と重なるにつれて恥ずかしくなってきたのだろう。
いずれまた名前で呼ぶようになるまで待てと言う自分に、佐助はやはりつまらなさそうにしていた。

政宗は昔の彼であってそうではないのだが、確かに前の世を引き継いでいるのだ。
俺もそう。
だが、あの生き急ぐように時を駆けていた頃とは違う。
穏やかな流れの今の世で、それに合った幸せを築いていける。
こうして寄り添って、ゆっくり貴方と心を寄り添わせたい。

「…さ、準備していくか、って…もう8時じゃねえかよ、起こせよ!」
「ごめんごめん…気持ち良さそうに寝ているから起こしづらくて」
「はあ?いつもは遅れるからって叩き起こす癖に」
「休みの日と平日は別問題だ」
「…はいはい」

約束の時間は11時くらい。
政宗は真田と遊ぶ予定だが、俺はといえばそうではない。
今頃楽しみ待っているであろう武田や上杉の顔が思い浮かんでげんなりとしてしまう。
まあ佐助からの悩み相談もあるのだが。

わかりあえたとはいえ、何故かまだ幸村とぎこちない状態にある佐助は相変わらずそちらの感情に疎い部分がある。
そこは前の世と変わりない。
忍として生きていたあの頃とは違い、いまならもっと感情に素直になってもよいはずだと思う。

それは自分も同じことなのだが。

「小十郎?」
「ああ、すまない、今行く」
ベッドの上でぼんやりと考え事をしていたのが不思議だったのか、政宗が食事の盛り付けをしながら首をかしげて此方の様子をうかがっていた。
小十郎は考え事を振り払って彼のもとに歩み寄る。
何時の間にやら自分用の食器まで買いそろえていた政宗。
新婚夫婦みたいだと言う突っ込みを佐助に食らったのだが、それは嬉しい突っ込みとして受け入れておいた。
「…小十郎、俺、父さんに頼まれてたものを取りに、帰りに馴染みの美術商の所に行くから」
「え、ああ」
「そこの人、結構面白い人だぜ、俺結構好きなんだ」
くすくす笑う政宗はその人物を思い出しているのだろう。
美術関係と言えば政宗に頼めばまず外れは無いと輝宗様は言っていた。
その素晴らしい鑑定眼をいかんなく発揮して仕入れた美術品の数々を見た事があるが、それは昔の光景を見事に思い出させてくれた。
あとでじっくり見たいものだと思っていると、政宗は食事を終えたらしく、食器を片づけて荷物の確認をしているようだった。

もう少し深く考えれば帰りに会う人物を想像できそうなものだったが、失念していたのは余りにも会いたくない人物だったからだろう。




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