文2

□乗っかる(佐幸)
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触れたいと思う事がある
好きだから
だけれど、それが難しくて、何時も尻込みしてしまう。
同じ気持ちだとわかっているというのに。
もしかしていきなり拒絶されたらと、そんな事ばかり考えて。

***

旦那の悪戯って言うのは、やる前が凄くわかりづらい。

唐突と言うか、それが悪戯の真骨頂でも有るからそれでいい。
本来人の感情を読むのが上手いはずの忍の俺がそれに気づけないって言う時点で相当悪戯が上手いってことになるんだけど。

なあ旦那、これって悪戯じゃないんだよね?



転んだ拍子に頭をぶつけた。
後頭部が痛いと思いながら佐助は幸村を見上げた。
一瞬、何とも言えない表情が見えたが、それは本当に一瞬だった。
あとは、彼にしては珍しい悪戯っ子の笑み。

腰のあたりに乗っかる幸村に、その密着した部分に意識が向く。

不思議な触れ合いを求めてきた彼に少しだけ困惑するが、佐助は苦笑いを浮かべてそれを隠した。

「どうしたの?」
「…佐助を不意打ちしようと思ってな、見事成功したというわけだ!」
「そうだね、俺は今討ち死にした気分だよ」
「ふふふ、命まではとらん、ただ…」

と言って、くすぐり始めた幸村に佐助はくすぐったさに少し身体をよじる。
こういう刑罰方法があるというので耐性は持っているのだが、幸村に触れられているので何となくくすぐったかった。
こういう甘い感情は邪魔だと思う忍としての性を抑え込み、佐助は自分の上に跨ったままの幸村を見上げる。

旦那は、こういう触れ合いを俺にしか求めない。
若くして優秀な彼は武田の他の家臣とは一線を置く存在、そして、俺達忍隊には主としての一線を置く。
年相応の触れ合いがしたくとも出来ない。
周りもそんな事が出来ない。
色々な段階をすっ飛ばして真田家を背負った旦那は、真面目すぎて変なところで感情を抑え込む癖が出来た。
だから、戦場で爆発したり、少しの事で動揺したり、過度に武田の大将を崇信したり。

こんなんじゃ直ぐ壊れる。
だから、俺は甘んじて彼の悪戯に付き合う。
ただ、旦那が自分にしか戯れをしないと言う事に優越感を感じていないと言えば嘘になる。
他の忍はこれが始まると、どこかに居なくなる。
ヤキモチを焼いている事もあるが、それと同時に安心して邪魔をしないようにしているのだ。
幸村が感情を殺す事を止める瞬間を。




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