恋海二次小説[2]
□夏祭り[7]かき氷
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「まだ残暑か…ヤマトは温度というより、湿度が高いな」
シンが言うのに〇〇も合わせる。
「はい。蒸し暑いって言うんですよ」
海賊船に乗って、ヤマトの自分の住んでいた土地しか知らなかった〇〇は、いろんな異国の地を知る事ができた。
その中でヤマトより気温が高くても、乾いた空気の土地は意外にも凌ぎやすいのだということも知った。
「こういう時には…」
〇〇がヤマトでの思い出を浮かべながら呟く。
それと同時に、かき氷を売っている露店が丁度目の前に見えた。
「そうです!シンさん、かき氷なんていかがですか!?」
「…前に、ナギがお前にだけ作って渡していたやつか」
あれは確か神秘の島に向かう事になった時のシリウス船での出来事だ。
うだるような暑さのなか、気がたっていたのかシンとハヤテが諍いを起こして、そしてナギがそれを遮ってくれて。
どうしようかと思っていたので安堵した〇〇に、ナギが無言で渡して来てくれたもの。
それが冷たく美味しそうなイチゴ味のかき氷であったと。
〇〇は今のシンの台詞に僅かに含まされた棘には全く気がつかず頷いた。
「はい!とっても美味しかったです」
〇〇は純粋にナギに貰ったかき氷を喜んでいるのであって、ナギに特別扱いされた事を喜んでいるのではないと充分分かってはいるが。
矢張り、こういう時シンとしては不興の面持ちになってしまう。
むすっと押し黙ったままのシンに気がつかない〇〇が、ただただ涼を求める無邪気な様子でかき氷の屋台に向かう。
この雑多な人の行き交う中で、彼女から目を話す訳にもいかないので、渋々ながらと言った風情は崩さずに、シンは〇〇の後に続いてやった。
「うーん。どの味にしよう〜」
赤、黄色、オレンジ、青、緑色。
氷にかける数種類の色のシロップを前にして、〇〇は悩んでいた。
「どれが、どんな味なんだ?」
シンが尋ねると。
「えっと、定番はやっぱり…赤い苺味のでしょうか」
赤い苺と〇〇は、なんだか似つかわしいので、ならばそれでいいだろうとシンは言いかけたのだが。
「ナギさんの作ってくれたかき氷もこれでした」
〇〇のその台詞が、シンに別の選択をさせた。
「ふーん。青いのが見た目にも涼しそうで、いいんじゃないか」
「あ、ブルーハワイですね。涼しそうな色ですよね〜」
敢えてナギが〇〇に与えたのと違う色を、シンは彼女に勧めたのだった。
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