恋海二次小説[2]

□メインディッシュ
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「っとに、あいつは性格悪いよなー」

「ま、まあまあ…ハヤテさん」

悪態をつきながらトワと一緒に食堂に入って来たハヤテに、ナギが視線をちらりと向ける。

「なんだハヤテ。またシンと喧嘩か」

「あ?ちげーってナギ兄。っつか、俺シンの名前今出したっけ?」

「出してないけど…何となくわかるよね。ね?ナギ」

ソウシが湯気も新しい茶を手にして微笑みながら、ナギに同意を求める。

ナギはなんとなく首肯するような仕草を見せつつも、特に応えは返さないが、ソウシも別段それは気にはしていない様子。

「そんなもんすか?あー、ナギ兄!腹減った」

ハヤテがどかりと食堂の椅子代わりの樽に腰掛けたところに、改めてソウシが問いかけた。

「で、何があったの」

「へ?」

「あのですね、さっきシンさんと〇〇さんの会話が聞こえちゃったんですよ」

トワがハヤテより早くソウシに答える。

「お前ら、また立ち聞きか」

ナギがフルーツを盛った籠をテーブルに置いてやりながら、ハヤテとトワの行為を咎めるように呟いた。

「た、たまたま聞こえちゃっただけですよ」

「そ、そうそう。〇〇が大きな声でシンに何が欲しいかって質問してるから、なにかなって気になっただけで」

慌てるトワと、一応は言い訳のつもりらしいハヤテの言いように、やっぱり立ち聞きじゃないかとナギとソウシが苦笑する。

「で、なんでハヤテが怒ってた訳?」

「怒ってたわけじゃ…お!このバナナ甘っ!超うめえっ」

「…」

すっかり食欲に支配されたハヤテをあきらめて、ソウシがトワの方を見る。

口の中いっぱいに果物を詰め込んで咀嚼中のハヤテに代わって、トワが先程聞いた会話を説明しだした。

「あのですね。〇〇さんが、来月のシンさんの誕生日に何か欲しいものはないですかって、尋ねてたんですよ」

「ああ、そう言えば…」

そんな時期であったかと、ソウシが頷く。

「えーと、で…何ていいますか…シンさんがですね」

少々言いにくそうにトワが言葉を濁していると、丁度嚥下したところのハヤテが不満そうに口を挟む。

「んなもんさっさと教えてやりゃーいいのによ。勿体ぶって全然教えてやんねーんだよ。シンの奴」

聞いてた方が苛々したぜとハヤテがまだ文句を言っていると、今度はリュウガが食堂にやって来た。

「なんだハヤテ不貞腐れて。シンと喧嘩でもしたのか」

「だーっ!してませんって!!」

なんで皆そう思うんだと、ハヤテが髪を片手で乱暴にガシガシとかきまわす。

リュウガが尋ねるようにソウシに視線を向けたので、今の会話をソウシがかいつまんで伝えた。

「なるほどな。ハヤテ、お前わかっちゃいねーな」

ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら、リュウガが顎をさすって言うと、案の定ハヤテはむっとした様子になった。

「なんすか。意味わかんないすよ」

「ま、既にシンのお楽しみは始まってるってところかな」

「は?お楽しみ?」

一向にハヤテはピンと来ないらしい。

「えーっと。つまり、シンさんなりの〇〇さんとのコミュニケーション…って事ですか?」

「トワが言うと健全すぎるが…まあ、そんなとこか」

ふと、リュウガが口を噤んで、何か考え込むように表情を引き締めた。

「船長、どうしたんですか?」

茶を一口啜ってからソウシが、黙り込んだリュウガを不思議そうに見やる。

「いや…あいつらが付きあってから、初めてのシンの誕生日になるよな」

「そうですね。〇〇ちゃん、シンをお祝いしたくて一生懸命だろうなあ」

ふふっと、微笑ましそうに言うソウシだが、リュウガは何故かうーんと尚一層考え込みだす。

「どうしたんですか、船長」

「いやな。恋人同士、初めての誕生日とくりゃ…さぞかし当日には熱い一夜が待ってるんだろうなと」

「ぶはーっ!!」

リュウガの発した一言に、ハヤテが丁度今口いっぱいに詰め込んだバナナを盛大に噴きだした。

それと同時に、厨房から大量の鍋が床に落下する音が響く。

「うわあっ!!ハヤテさんっ、汚いじゃないですかっ!」

「げほっ、げほげほげほっ!」

「ナギ、大丈夫かい!?」

「…手が滑っただけです」

「ったく…船長が急に変なこと言いだすから…」

ソウシに咎める眼差しを向けられて、リュウガが肩を竦める。

「見当はずれでもねえと思うがな」

「それはそうですけど、表現を考えて下さい」

発想とその可能性自体を否定するつもりは、ソウシにもないらしい。

「シンの誕生日が来る前に、耳栓買っておくかな…」

彼らの隣室のハヤテが、満更冗談という訳でもない表情で、誰にともなくぽつりと呟く。

「そうだなあ。話を聞けば、既に美味しく頂く気充分みてえだからな。シンは」

豪快に笑って言うリュウガは、所詮部屋も離れているし、他人事と思っているのか。

「一ヶ月も前から仕込んだメインディッシュとなりゃあ、格別だろうなあ」

そんなリュウガの台詞に、シリウスの男達の互いの胸中は察するに余りあるものであった。






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