恋海二次小説[2]
□あなたとシエスタ
1ページ/1ページ
船に乗ったのなんて、このシリウス船が初めてな私は、正直最初の頃は船酔いで苦しむこともあったのだけれど。
それが今では不思議、波の揺れを背中に心地よく感じて、こうして甲板に転がって空を眺めるのがお気に入りになっている。
目の前に広がる空は、故郷のヤマトにも繋がってるんだなあなんて、当然の事が、なんだか不思議だ。
そんな事を考えていたら、いつの間にかまどろんでいたらしい。
気がつくと、背中には甲板の床とは違う、柔らかい感触。
見慣れた天井に、嗅ぎ慣れた香の匂い。
そして、寄り添ってもらえると安心する、その体温。
「あれ?」
「お目覚めか」
聞きなれた、低音が混じって響くシンさんの声に、自分が部屋のベッドの上にいるのに気がつく。
隣に、シンさんが肘をついて、私を覗きこむように寝転がっていた。
「もしかして、シンさんが運んでくれたんですか?」
きっと、この俺に手間をかけさせやがってとか、怒られるんだろうな。
何故なら、シンさんの目が、ご機嫌斜めそうだから。
こういう時に続くのは、多分なにかのお説教や叱責だ。
「覚えてないのか」
やっぱり声にも、不機嫌がこもってる。
「すみません」
できるだけ神妙に謝る私に、シンさんが何やら憂うような溜息をついて見せた。
なんだろう。
「お前、運んでる途中、俺にしがみついてきた」
「そうなんですか?」
私寝ぼけてたんだな、それを他の皆に見とがめられて、からかわれたりしたのかな。
彼が眉を顰める原因を思いめぐらしてみる。
でも、シンさんの続けたのは、私が想像してたのとは違った。
「俺だったからいいが、他の奴だったら」
「へ?」
よく聞こえなくて、正確にはシンさんの言わんとしてることがつかめなくて、もう一度と伺ってみた。
「なんでもない」
ふいと顔をそらしたシンさんは、なぜだか気まずそうに。
でも、その頬が少し照れてるみたいに見えたのは気のせいかな。
「甲板で寝るくらいなら、ちゃんと部屋で寝ておけ」
ポンポンと、シンさんがあやすように、私にかけてくれた毛布を優しくたたく。
「シンさんも、一緒に?」
「調子にのるな」
素っ気ない言葉だけれど、声音も瞳も優しくて。
もう眠くなんてなかったのだけれど、シンさんと一緒にいれるひと時が心地よくて、私はうっとり瞼を閉じた。
あなたとシエスタ
「無防備なのは、俺の前だけにしろ」
タイトルは配布元:love is a moment
さんよりお借りしました。
『可愛い恋で五題』より。