恋海二次小説[2]

□手のひらと手のひらを
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「シンさん。手、広げてみてください」

私の唐突なお願いに、シンさんの素っ気ない返事。

「はあ?なんでそんなことを、しなきゃならん」

「ちょっとだけ」

くじけずにお願いを続けると、シンさんはそれはもう面倒そうに、右の掌を私に広げてみせてくれた。

「シンさんの手って、意外と大きいですよね」

「意外とってなんだ」

シンさんが面白くなさそうに私を見る。

だって、すらっと繊細に長い指、そしてうっすらと血管が浮いて見える筋張った手の甲は、優雅と言っていいくらいに奇麗で。

イメージ的には女性的ですらあるような奇麗なシンさんの手。

でも実際に触れられて知ったけれど、やっぱり男の人らしくごつごつと骨ばった感触。

私の手よりもずっと大きいシンさんの手。

ふと、どの位違うのかなと好奇心が湧いて、目の前のシンさんの手のひらに自分のをあててみる。

「うわあ、全然大きいですね」

「当然だろう。…って言うか、お前の手やたらと冷たくないか」

「さっきまで、洗濯してたので」

私はトワ君やファジーさんと一緒に、大量の洗濯物を洗い終わったばかりだった。

気温が低い海域の中、たらいに注いだ水も冷たくて、ファジーさんは足で踏んで洗おうよなんて言う位辛かったみたい。

冷たくなるのは足も手も一緒だしとトワ君がなだめてたけれど、ファジーさんは不満そうで。

足なんかで洗ってるとこ見られたら、こっぴどく怒られますよというトワ君の台詞に、ようやっと観念してたらいの中の洗濯物を両手で力いっぱいファジーさんは洗いだしてた。

ちょっと面白かった、ファジーさんとトワ君のやりとりを、私が思い返していると。

「もう片方の手も出せ」

急にシンさんの命令する声。

「え?なんで…」

「いいから、さっさと出せ」

私が言う通りにすると、シンさんの両の手のひらが、差し出した私の両手を握るように包んできた。

「やっぱり大きいですね」

私を簡単に包みこんでくれるシンさんの手を見ると、なんだか嬉しい。

大きくて、温かいシンさん。

「手が冷たい人間は、心が温かいって言うよな」

シンさんが私の目を見て囁く。

「シンさんは、手も心も温かいですよね」

私が思ったままに口にすると、ちょっと驚いたようなシンさんの片目が見えた。

「そんな事言う女は、お前だけだ」

そんなシンさんのつぶやきは、私の心の中に一点の熱を灯す。

それがジワジワと、心から体に伝わって、細胞全てがシンさんに包まれて温められてるみたいに、満ち足りていく。

どう言ったらいいのか、わからないこの感覚。

お前だけだと言った、シンさんの言葉が多分嬉しいの。

それは言葉じりだけで、シンさんが言いたかったのは深い意味はないのだと思うけれど。

シンさんの何気ない一言で、私は細胞レベルで満たされる。

嬉しくなって、自然とふふっと笑みがこぼれる。シンさんに手を包まれたままで。





「手のひらと手のひらをあわせるだけでも、恋人みたいで嬉しいな」
「…みたいじゃねえだろ」













タイトルは配布元:love is a moment
さんよりお借りしました。


『可愛い恋で五題』より。


 

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