過去拍手掲載物
□彼からの質問。[text]
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彼からの突然の質問。
「お前、今誰か好きな男いるのか?」
彼の見張り番の夜、なんだか寝付けなくて、厨房で簡単な飲み物を用意して差し入れに向かった。
すぐに追い返されたくないから、ちゃっかり自分の分も用意して行ったので
他愛もない話をしばらく一緒に交わせたのがちょっと嬉しかった。
あの星は何ていう星なのかなとか、明日も晴れるかなとか…そんなやりとりを夜の帳の中ポツポツ二人で話していて。
ふと、お互いの言葉が閉じて、なんとなく目の前に広がる黒い波が穏やかに波打つ海原を眺めてた。
夜の海は怖いけど、でもこうやって静かな夜、彼と一緒に船の上から見るのなら怖くない。こんな船の上は揺りかごみたい。
そして海の見せる漆黒も、波の刻む鼓動のようなリズムの黒い音符で埋めつくされている光景に見えてきて、心地よい子守唄みたいなその波にとけ入りそう。
そんな風に、二人で…と思ってたのだけど。
もしかして、ぼんやりしてたのは私だけだったのだろうか。
突然の問いかけ。
それまのでやり取りとは…多分脈絡がなくて、うん…ないよね?なんて自ら自分の内で確認作業をしてしまう。
なにより彼の口から出るのに似つかわしくないその台詞、その言葉の意味が自分の中に浸透するまでちょっと時間を有してしまった。
意味が理解できると、途端にうろたえてしまうのは必須。
なぜいきなり、そんなことを訊いてくるのかと。
自分の言動になにか不審な点があったっけとか、それまでの会話とか、自分のとったと思われる行動を思いめぐらすのだけど。
気付かれないように、こっそりと想ってたつもりだけど、初めての恋は隠す術も正直わからなくて。
でも彼を困らせたり、彼と気まずくなるのは嫌だから…自分なりに、気をつけていた筈なのだけど。
失敗しちゃった?
やっぱり、駄目だなあ自分…なんて反省モードに。
「なんで、黙ってるんだよ」
とっても憤ったような声が、頭上から降ってくる。
「なんで、そんなこと…?」
質問…いや、尋問をしてくるのかと、自分の不始末の原因を逆に問いただしたくて、敢えて質問で返してしまう。
恨めしい気分で、覗きこんでくる彼の目をせめてもの抗議のつもりで一生懸命私の目も開いて見つめ返してやる。
やっぱり、目線勝負が野生のルールなんでしょうか…目をそらした方が負けなら
別に、負けでもいいことに気がつく。
彼の質問に答えたくないだけなのだから。
…負けるが勝ちと言う教えもお爺ちゃんが言ってたしな。
そんな風に私は思い起こして、「なんで、そんなこと訊くの?」と思い浮かんだ限り一番無難な台詞を言ったつもりだった。
平和な心になった私に
至極物騒な、彼の言葉が落とされる。
「その男、海の藻屑にしてやる」
End
リクエストで頂いていた、シンが見張り番の夜の話でした