過去拍手掲載物
□ 何かいいことないか子猫チャン。[text]
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○○が、厨房に山と積まれたカボチャに驚く。
「こんなに沢山どうするんですか?」
「船長がイベント好きだからな…」
ナギが説明してくれるところによると、今夜はハロウィンの宴をするのだと。
初めて聞いたその行事に○○が興味を持ったようで、もっと詳しくとナギに尋ねる。
「まあ、収穫の祝いみてえなもんらしい」
「カボチャの収穫祭なんですか?」
「そうじゃねえけど、俺もよく知らねえ」
船長に言われて作ってるだけだと、言葉少ないナギの説明では○○にはよくその内容がわからない。
「カボチャはハロウィンのシンボルみたいなものなんだ。大きなオレンジのカボチャをお化けの顔にくりぬいた提灯を作ったりね」
丁度食堂を訪れたソウシに二人の会話が聞こえたのだろう、ナギに代わるように詳しい説明をしてくれる。
「なんだか、可愛いですね」
○○はそのカボチャ提灯を想像してみた。
「他にもね、子供たちがお化けの仮装をしてトリック・オア・トリートって言いながらお菓子をもらいに廻ったりするんだ」
「トリック・オア・トリート?」
単語の意味がわからなくて呟く○○の耳元に、ソウシが顔を近寄らせた。
「お菓子をくれなきゃ、いたずらするよ…って意味」
耳をくすぐるようなソウシの柔らかい声に○○が少しくすぐったそうな仕草をする。
「カボチャのお菓子を作るのが定番なんだってよ、ほら手伝え○○」
ソウシと○○のやりとりに挟むようにナギが言ってくるのに、○○は素直に従う。
クスリとソウシが笑みをこぼして、少々名残りおしげに医務室に戻って行く。
「カボチャのお菓子かあ…」
「ヤマトではどんなのがあるんだ?」
ナギはヤマトの料理のことをよく○○に尋ねる、今まで馴染みのない料理が多いらしく料理人としての探究心がそそられるらしい。
「ええっと、カボチャだんごとか、カボチャようかんとか、お汁粉に入れたり、茶巾とかもありますね…」
思い出しながら、あれこれと知っているお菓子の名前を口に綴っていく○○。
「作れるのあるなら頼めるか?」
「勿論!任せてください」
なんだか楽しくなってきましたと、○○が初めての行事の準備にウキウキと作業を始める。
その無邪気な様子を見ていると、ナギも初めて…こういう行事もいいもんかもなと思えた。
「すごい量だな…」
昼食を前に食堂に集まってきた船員達が厨房のカボチャをみて皆同様の台詞を漏らす。
「丁度良かった、今年○○は初めての行事だろう」
リュウガがなにかの包みを持って、○○を手招く。
「なんですか?船長」
席に坐したリュウガに○○が近寄ると、リュウガが持っていたそれを渡してくる。
「用意しておいたぞ、後でこれを着るといい」
先ほどのソウシの説明に仮装をすると言うのがあったなと思い返して、何が入ってるのかと○○がガサゴソと包みを開いて中を見ようとするのをリュウガが制する。
「バカ、他の奴らに今から見せるな。着てみてからのお楽しみだろ」
「…船長、こいつはガキなんで余り過激なものは」
お楽しみなどと言う、船長が言うと激しく不穏な単語にシンが黙っていられなかったのだろう、○○をかばうように口を挟んでくる。
「相変わらず過保護だなあ、お前は」
「船長が信用ならないだけですよ、シンじゃなくとも心配になります」
ソウシまでもがリュウガの渡した仮装用のいでたちが一体どんものなのなのかとの懸念をして諌めてくる。
「安心しろ、露出はしてねえ」
リュウガのその一言に、それならとソウシとシンがなんとなく目をあわせてそれ以上の追及を止める。
傍でやりとりを聞いていた○○も、リュウガの返事に少し安心したようだった。
「確かに露出はしてないが…」
○○がリュウガに早く着てみろと促され部屋にもどり、着終わったと同時にシンも部屋に戻ってくる。
恐らくその狙ったようなタイミングは、シンとしては彼女の仮装がどんなものかいち早く確認しておきたかったのだろうが、○○には当然シンのそんな心中は思いもよらない。
「レースがついてて可愛いスカートですよね」
○○の服装は…黒のワンピース、スカートは膝上のふんわりふくらんだフレアースカートで、下には白いレースがたっぷりとのぞいている。
それにレースで飾られた白いエプロンという…いわゆるメイド服だった。
白いオーバー二―ソックスとスカートの間に見える○○の白い足が、完全に露出しているよりも艶めかしく見えるのは、リュウガの計算ずくのことなのか。
頭にはカチューシャタイプの白いヘッドドレス、更に黒い猫の耳と、スカートの後ろからは黒い尻尾がつけられている。
「船長…」
リュウガの妙にマニアックな嗜好を新たに伺い見たような気がして、シンが思わず呟く。
メイド服というものの何たるかをよく理解していない○○としては、思ったより普通の服でよかったかなという程度の認識らしい。
しかし、ある意味露出した服よりも男心をくすぐりかねない格好だ。
「エプロンもついてるし、作業着も兼ねてるんですよね。これならナギさんのお手伝いにも支障なさそうです」
リュウガの気遣いなんだろうと、疑うことを知らない○○がシンからすればしなくてもいい感謝をしながら、そのまま厨房に出かけようとする。
厚底の黒エナメルの靴が少々歩きにくいらしく、○○はひょこひょことおぼつかない足取りになっている。
「おい、待て」
「なんですか?」
思わず引きとめたシンだが、その後に続ける言葉が出てこない。
この姿で部屋の外に出したくないと咄嗟に思ってしまったのだが、表向き露出があるわけではない、過剰な装飾があるとは言えメイド服なのだから作業着という解釈も間違ってはいない。
船長が着ろと言った以上、客観的に納得できるような理由がなければ、そう簡単には覆せられない。
…そこまで船長は計算してこの衣装にしたのか
シンが疑り深く考えていると、その沈黙に○○が小首を傾げて見上げてくる。
厚底の靴を履いていても尚○○の身長は小さい。
「お前、不用意にかがむなよ」
「へ?」
やっと絞り出すように言ったシンの言葉に、やはり○○はよくわからなげな声をあげる。
露出は少ないと言っても、その丈のスカートで不用意にかがめば下着が見えてしまうのは必須。
普段の○○の立ち居振る舞い通りにしていたら、シンが懸念するような状況は山と起こってしまうだろう。
「いいから、お前は黙って俺の言いつけを守ればいいんだよ」
じゃないと…とシンが懐の銃に手をのばそうとするのに○○が慌てて従順になる。
「わっ、わかりました!よくわからないけど、気をつけます!!」
なんとも当てにならなさそうな返事をして、その場から逃げるように部屋を出て行く○○を、シンはなんとも言えない気分で見送った。
「ナギさん、すみません。カボチャ料理の続きしますね〜」
「おう…って、お前。その格好…」
厨房にいつも通りに元気に…履きなれない靴でわずかに足元の動きは頼りないが…やって来た○○の姿にナギが目を丸くする。
「さっきの船長からの衣装です。ちゃんと仕事もしやすいようにエプロンなんですよ」
ニコニコと○○が途中だったカボチャ料理に着手しながら言うのに、ナギは内心で「それは違うだろ」と突っ込みを入れる。
「船長の趣味がますますわからねえ…」
元から理解し難かったリュウガの嗜好がナギには更に謎になる。
それでもよくわからないまでも、ただ単純に目の前の○○の姿は愛くるしい。
歩きにくそうな靴で頑張って歩く姿が雛鳥みたいで頼りなくて可愛いとか、揺れるスカートの裾が妙に危なっかしくて見てられないとか、数センチだけのぞく白い素足につい視線が張り付きそうになって慌ててしまうとか。
雑多な感情が交錯するのに反比例するように、ナギは無口になっていってしまう。
だがナギが言葉少ないのは珍しいことでもないので、○○もまったく何も気にせずいつも通りにせっせと仕事に精を出している。
「ええと、卵は…」
「ああ、そこの床においてある」
ナギの示した場所に目当てのものを見つけて、○○が卵の入った小さな木箱を床から持ち上げる。
途端に○○の背後から、ガシャンと大きな音が響く。
驚いて振り向くと、○○の方を見たままナギが固まった表情で立ちすくんでいて、その手元から落としたらしい鍋が彼の足元に転がっている。
「ナ、ナギさん?」
一体どうしたのかと○○が心配そうに声をかけてくるのに、ナギが気をとりもどしたようにハッとする。
「なんでもねえ…」
シンの言いつけなど、すっかりどこへやら消えた○○がかがんだ拍子に、スカートの中身が顕わになってしまったのだ。
突然目に飛び込んできた○○の下着と素足の白い肌に、ナギは動揺してしまって手に持っていた鍋を落してしまった。
思わず赤くなってしまっただろう顔を隠す様に、ナギが片方の掌で口元を覆って今さらながらに○○から顔をそらす。
…この格好でうろつかせたくねえんだが
ナギにそんな思いがかすめるが、船長に命じられて○○が着ているものをどうこうできない。
せめて厨房内だけでもと、ナギは自分の腰に巻いているエプロンをとって、おもむろに○○に巻きつけてやる。
…細っせえ腰だな
当然と言えば当然だが、ナギが巻いているより多く巻かないと余る布に心の中で呟く。
エプロンの丈も小柄な○○には長くなって、スカートを覆い隠す様になる。
「ナギさん?」
突然のナギの無言の行動に不思議そうに○○が問いかけてくる。
「…船長からの服だしな、汚さねえようにだ。厨房の中だけでもつけてろ」
かがんでもこれならさっきの様にはならないだろうというナギなりの苦肉の策だった。
不自然で苦しい言い訳にも○○は素直に納得して、ナギに礼まで言ってくる。
その素朴な単純さまでもが可愛いと思ってしまうのは、結構ヤバいなと自嘲するようにナギは思う。
「思った通り、よく似合うじゃないか○○」
始まりかけた宴の席でリュウガが上機嫌で言ってくる。
他の船員をみまわして、○○が船長に「あの、他の人たちには仮装の衣装って…」と尋ねるも
「男に服やっても楽しくも何ともねえだろ」とリュウガが即返す。
「ええと、じゃあファジーさんは…」
いつもの余興用のような踊子の衣装を身につけているが、あれが船長があげた仮装の衣装なのかと○○が聞いてみる。
「アタイは惚れた男以外から服はもらわない主義なんだよ」
「男…」
そう言えば船長も男だったっけなどと、リュウガからすればなんとも失礼であろうことを考えてしまった。
父との思い出が少ない○○にとって、この船をまとめて支えるリュウガは、もし父親がいてくれたらこんな風に頼れて安心できてたのかなと思わせるものだったので。
○○にとってリュウガは保護者みたいな存在になってしまっていたので、当然ながら異性として意識したことがなかったのだ。
「男が女に服をプレゼントするのは、その服を脱がせるためなんだからね」
ファジーの台詞にハヤテが盛大に飲んでいた酒を吹く。
「気色悪いこと言うんじゃねえよ!このメスゴリラ!!」
「なんだってえ!」
つかみあいの喧嘩になりそうなのを○○が慌てて押しとどめる。
「まあまあっ」
「ったく、○○あんたも気をつけなよ」
ファジーが先ほどの台詞に続けるのに、○○がその内容を逡巡する。
…シンさんからは、よく服買ってもらってしまってるけど
思い返すと、確かにことごとくその服達をシンに脱がせられている事実に思いあたってしまい、思わず頬が赤くなる。
その様子に、○○の考えていることがすぐに察せられたのだろう。
「バカだね、この子は。シン様はいいんだよ、恋人なんだから。思う存分脱がさせてやりな」
「ファジーさっ…」
大胆なファジーの発言に○○が湯気でもでそうな勢いで更に顔が真っ赤になっていく、それに畳みかけるようにリュウガも言う。
「そうか、俺の贈ったその服もシンに脱がされる運命か」
「せっ…船長!!」
口をぱくぱくと陸にあがった魚のようにさせ、羞恥で呼吸もままならないような様子で○○が慌てふためく。
その素直な反応が楽しくて、更にからかいたくなってしまうのだが、○○自身に当然そんなことがわかるわけもない。
まだ○○をいじりたそうなファジーと船長から逃げるように、○○が厨房に料理をとりに戻る。
実際まだナギの手伝いの途中で、宴の席に料理や酒などを配っていた最中につかまってしまったのだ。
…シンさんには今の会話聞こえてないよね
こっそりシンを伺い見ると、いつもの静かな表情で銃の手入れをしているようで、○○はなんとなく安堵の息をつく。
unfinished
タイトル見て思った方もいるかもしれませんが、実はロイがからんでくる話の予定だったんですが…冗長になりすぎて、まとまらなかったと言うorz機会があったら、こねくり直して書きあげたいです。