過去拍手掲載物

□VirginLip
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ファジーさんが、ただでも肌の荒れる海の上の生活なんだからこれくらいはつけなよと、可愛いピンクのリップをくれた。

塗るとほんのり唇が染まるよと言われたので、手鏡を片手にドキドキと私はそれを塗る為に戸惑い中。

自分の体に色をつけるって、なんだか変な気分。

お化粧自体、貧しいヤマトの暮らしでは、そんな余裕なかったのでしたことないし

きれいにつけれるかなあ…はみだしたりしないようにしなきゃって。

初めて塗るリップを手に緊張してしまう。

意を決してリップを塗りだしたところに。

折り悪く、ノックが4回!

シンさんだ!!

「ど、どうぞ!!」

私が顔をあげて急いで返事するのと同時に、シンさんが入って来た。

「…お前…何だそれ」

私の顔を見てシンさんが一瞬目を見張って、それから笑いの籠った声を出した。

「ええっ…?え…」

「本当に、不器用だな。お前」

「え?」

「盛大に口からはみだしてるぞ」

嘘っ!?

リップを塗ってる最中に慌てて返事したから、はみだしちゃったんだ!

シンさんにみっともない顔を見られてしまったというショックと恥ずかしさで、私は思わず固まってしまった。

そんな私が握っているリップを難なくシンさんが取り上げる。

そして、シンさんのもう片方の手が私に近づいて来て。

シンさんの指が、私の唇に触れた。

「え!?」

唇に感じる、シンさんの指の感触に、心臓がトクンって撥ねる。

私の唇をシンさんの指がなぞる。

くすぐったくて、ドキドキしてしまう。

…あ、はみだしたリップを拭ってくれているんだ

シンさんの長い指で優しく触れられるのが、とっても気持ちがいい。

「塗ってやる」

私から取り上げたリップを手にして、シンさんが宣言した。

「ええっ!?」

「動くなよ」

私の顎にシンさんの指がかかって、固定するようにしてくる。

シンさんの綺麗な顔が近付いてきて。

シンさんって、やっぱり綺麗。

本当にかっこいいなあって、つくづく思ってしまって。

「おい、じろじろ見るな。やりづらい」

そう言われて、私は自分がシンさんにまたもや見惚れていた事に気がついて、急いで目を閉じた。

訪れるかと思ったリップの感触は一向にやってこなくて。

シンさんは、私の顎に手をかけたまま、それ以上動く気配もなくて。

私は緊張で目をギュッと閉じたまま、自分の鼓動だけを感じていた。

シンさんが、息をついた…のと同時にまるで止まっていたみたいな、部屋の空気がやっと緩んだ気がした。

「お前…男の前で簡単に目を閉じるんじゃねーよ」

急に不機嫌そうに、私を非難するみたいにシンさんがそんな事を言って来たので、私が閉じていた目を開くと。

目の前には、シンさんが整った眉を顰めて私を見ている。

見て…というよりは、睨んでるって言った方が合ってるようなその視線。

「だ、だってシンさんが…」

理不尽な、と思ってしまう私は至極真っ当なはず。

見るなって言うから目を閉じたのに。

「いいから。目を開けてじっとしてろ」

シンさんの顔を見すぎないように、私は少し視線を落とす。

私の唇に、シンさんの手にしたリップが近付くのが見える。

滑らかに私の唇の上をすべる、淡いピンクのリップ。

唇の形にあわせてなぞる感触に、シンさんが私に薬を飲ませる為にしてきたキスを思い出してしまって。

段々頬が熱くなってくるのがわかった。

「よし、塗れたぞ…なんだお前。何を興奮してる」

「し…っ、してません!!」

こういうのは興奮じゃなくって、ドキドキしているって言うんです!

案の定赤くなっている私に気がついたシンさんに、心の中でだけ反論して訂正する。

言ったら、どっちでも同じことだとか言われそうだから。

面白そうに、意地悪に笑んで私を見てくるシンさん。

「ふっ。お前、今塗った唇よりも頬が赤いぞ」

「っ!!シ、シンさんのせいですっ」

「ほう、何故だ」

思わず反論してしまった私に、シンさんがまるで猫が何か見つけた時みたいな瞳をした。

「えっ?」

「何で頬が赤いのまで、俺のせいなんだと訊いてる」

「そ…それは」

シンさんとのファーストキスを思い出してました…なんて言えない!

「ほら、言ってみろよ」

「うう…」

「言えって…何を思い出していた?」

「!!」

やっぱり、やっぱりシンさんは、すっごく意地悪だ!

頑張って睨みあげたシンさんの顔は、すごく愉しそうで、意地の悪い笑みで…でもやっぱりその表情さえも綺麗で。

こんな状況でもシンさんに見惚れそうになる自分が、悔しいなんて思ってしまった。

VirginLip



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