恋海二次小説[1]
□遭難〜Troublemaker〜《3》【シン×主人公←ナギ】
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荒々しい音とともに航海室の扉が乱暴に開かれて、険しい表情のシンが現れる。
カツカツと響く足音にも、その苛立ちがこもって響いているようだ。
「おう、シン。大体つかめたか」
リュウガが尋ねるのは、昨夜見舞われた大嵐の際に波にさらわれて不明になった〇〇とナギのことだ。
嵐が過ぎ去ってすぐに、シンは当時の状況などから二人が流されそうなルートを探っていた。
「はい、恐らく…」
シンが海図をリュウガに示して、昨夜からの天候や潮流などから割り出した…一番可能性が高い島を指し示す。
そこは小さな無人島で、今船のある場所からはそう遠くはないが…しかし、すぐには向かえない事情があった。
船の破損が思いのほか激しかったのだ。
今のところシン以外の船員達で復旧作業にかかっている。
幸い自分たちで修繕できそうなレベルのものだったが。
「船は、いつ出せそうですか」
「うーん…、今必死でやってるが。それでも今日いっぱいはかかりそうだな」
苦々しいリュウガの口調に、それ以上にシンの顔が苦いものになる。
確かに二人の安否は気になるが、腕がたち山賊としてもならしたナギなら多少の困難はものともしないだろうし、また妙に運が強い〇〇が一緒だ。
リュウガが〇〇を幸運の女神と評したのは決して戯れやその場の思い付きではない。
〇〇本人は戦う能力を持たない自分を足手まといと思っているようだが、戦闘能力だけが強さではないとリュウガは思っている。
不思議と、〇〇が一緒ならカナズチのナギが海に漂流したとしても助かってるだろうと、根拠らしいものは全くないのに強い確信でそう思える。
「今日いっぱいですか…」
そうなると、二人を探す為に船を出すのは明日の朝になってしまう。
シンも当然二人の安否が気になるが、リュウガと同じような確信で自分が見当のつけた無人島に二人は無事に流れ着いているであろうと思っている。
しかし、そうなるとまた別の焦燥感がシンには襲ってくるのだ。
当然だ、自分の恋人と彼女に想いを寄せている男が二人きりなのだから。
勿論別々に流されているという可能性もあるのだが、シンは嵐の夜波にさらわれた〇〇を必死で強く抱きとめたナギの姿を思い返す。
どんな困難な事態に見舞われても、ナギが〇〇をかばったその腕を離すことはないだろうと。
「…くそっ。自分も復旧作業に加わってきます」
「おい、シン!お前寝てないだろ、少しは休め…」
リュウガの気遣う言葉も聞こえないように、シンは苛々とした感情を取り繕いもせずに甲板に向かっていく。
もしも〇〇が一人きりなら、それはそれで心配で仕方がないのも事実。
ナギが一緒なら、〇〇を何があっても守り切るだろうという信頼も持っている。
しかし、あの〇〇と四六時中二人きりでいて果たして平常心を保てる男がいるだろうかと…日ごろ無自覚で男心を乱しまくる〇〇の振舞いに散々煽られて振りまわされているわが身をシンは思い返す。
決して直情的ではない筈のシンが〇〇の言動には揺さぶられて理性が制御不能になってしまうのだから。
しかしナギにしても相応の自制心はあるだろうし、なにより〇〇を大切に思ってる以上彼女の意思を無視する様な行いを軽々しくするとはシンも思っていない。
それでも男の衝動というものは時には己でも手がつけられない程に激しく、ままならなくなってしまう厄介なものなのだ。
そんな事を露知らない〇〇が、ナギと二人きりの状態で一体どれだけ無邪気に男の理性の堤防を決壊させるようなことをしてしまっているかと考えるだに恐ろしい。
シンが甲板に出ると、船を修復する工具の音が忙しなく響いている。
「〇〇さん大丈夫でしょうか。早く無事を確かめたいです」
トワの〇〇の身を案じてしょうがないという様子に、かなずちで釘を打ちつける音に負けないようにとハヤテが声を張り上げて言う。
「大丈夫に決まってるだろ!ナギ兄だって一緒なんだし…うわっ。釘がなくなった!!とって来いよトワ」
思った以上に破損個所が多かったのに、ハヤテが焦った声を出してトワに指示している。
ファジーが回収が間に合わなくて破れた帆をせっせと縫い直していて、ソウシもそれを手伝って器用な指先で厚い布を補強するようにすいすいと縫いつけている。
「いいトワ、俺がとってくる」
トワの作業の手を休めないようにと、シンがハヤテの言った必要なものを取りに足を向けるのはとても意外なことだ。
ハヤテもトワも驚いて、思わず手を止めてお互いを見直しあってしまう。
そんな彼らに気付いたシンから、いつものような怒号が降って来る。
「お前ら、手を休めるんじゃねー。海の藻屑になりたいか!」
この愛用の銃で打たれて海に消えたくなければ、俺の言う通りに働けとシンは本当に船員達をぶっ殺しそうな目で威嚇する。
たった一人の大事な女を無事に自分の手元にもどすために…シンはこのシリウスを率先として統べるように動いている。
それこそ、海賊王たるリュウガさえも押しのけるように。
To be continued.