Heroine's diary3
○月▼日 天気 曇り
シンさんにお城の話をしてみた。
最初は怪訝そうにしてたシンさんだけど、すぐに馬車でこの町に来る途中にあった建物のことだとわかったみたい。
「お前、馬車でその話したのか」って聞かれた。
頷いたら「ふーん」って。
意味ありげだなあ。なんだろう。
「ナギもいたんだよな」って更に聞かれた。
なんでそんなこと、わざわざ確認してくるんだろうって思ったけど。
「はい。乗り物酔いしたみたいでしたよ」って答えた。
そうしたら、シンさんがなんだか、表現しがたい複雑な顔をした。
一瞬だけど。
なんて言うのかな。
うーん…。
ちょっと眉をしかめたような、なんだか、なんて言うのかなあ。
うまく言えないけど、その顔を見て、私はシンさんもナギさんと同じ乗り物酔いをしたように思えて
「シンさんも、馬車で山道に酔ったんですか?」って聞いてみた。
「はあ?」
って、これこそ思いっきり怪訝そうに返されたよ。
「なんだか、乗り物酔いしたナギさんに、共感してるみたいな顔だったから…」って言うと。
シンさん、ちょっと私の目をじっと見た後、なぜか疲れたような溜息をつかれましたよ。
「お前は、敏いように見えて、やっぱり鈍いな。いや、盛大に方向性がずれてるって言うべきか」って台詞とともに。
一体どういう意味だろうと、私は考えこんでいたのだけど。
ふと気がつくと、シンさんが見なれた…いや、これを見なれてしまってるって、どういうことなのだろうかと思ったりもするけれど…私をからかういつもの目で見ていた。
ベッド横のランプの光が、シンさんの黒曜石みたいな瞳をきらきらさせていて。
「で?」
「はい?」
「お前は、そのお城に行ってみたいわけか」
「はい!」
連れて行ってくれるのだろうかと、私は意気込んで頷いた。
「ふうん。じゃあ、まずは上手におねだりをしてもらわないとな」
そんな風に言いながら、それこそいつもの、物騒なくらいに綺麗なシンさんの瞳が、私に近づいてきたのでした…。
……………。