♪過去の拍手小話♪
□髪結い
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髪結い
16番隊隊長は鏡の前でしばらくにらめっこしていた。
腕を先日怪我してしまい、髪を結うのに苦労していたのだ。辛うじて着物は着れたのだが、髪結いなどのしばらく腕をあげなくてはならない作業が辛い。かと言って髪をおろしたままでいるのもうっとうしい。
それで、どうしたものかと鏡の前で試行錯誤していたのだ。
そこに、軽いノック音が響いた。現れたのは、見舞いにやってきたビスタだった。
「イゾウ、大丈夫か?ラベンダーエキスを持って来てやったぞ?傷によく効くのでな」
そう言ってビスタはイゾウに茶色の小瓶を差し出した。
「よう、ビスタ。悪いな・・・ありがとう」
イゾウは手に持っていたくしを置き、小瓶を受け取った。ビスタはその様子を見ながら、意外な事を提案してきた。
「苦労しているようだな・・・俺が代わりに結ってやろうか?」
イゾウはきょとんとした顔でビスタを見つめた。当人は長い髪を下ろしたままだから髪を結えるイメージがなかった。しかし、自分一人ではお手上げなのは確かだったので同意し、されるがまま任せているとあっという間にビスタはイゾウの髪を結いあげてしまった。
イゾウは目をまんまるくさせて鏡に映った自分とビスタを眺めた。
「驚いた。大きな手をして器用なものだな」
ビスタはフフフと笑って
「お褒めに預かり光栄だな。なんだったら、怪我が治るまで俺が結ってやろうか?」
と自慢のヒゲを引っ張りつつ返した。
イゾウは妖艶な笑みで鏡越しに囁いた。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
〈End〉