☆財宝と献上物その2☆

□蝶
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とある島に停泊中のハートの海賊船に飛んできた一本の矢・・・

そこから彼らの長い一日が始まった。

ローが甲板から引き抜いた矢には紙が巻き付けられており、カサカサと開いてみれば目を疑うような事が書かれていた。

“船員を預かった。返して欲しければトラファルガー ・・・お前一人で山のてっぺんの洞窟まで来い”

ローは急いで船員達を全員甲板に集めた。一体誰がさらわれたのかを知るためだ。
すぐに集まり、ガヤガヤと騒ぎ立てる仲間達をぐるっと見回した彼はすぐに気づいた。見慣れた派手なキャスケット帽が見当たらないということに・・・
目を疑った。仮にも彼はこの船の副船長であり、そこそこ腕がたつからだ。絞り出すような声でローは呟いた。

「シャチ・・・」



事の始まりはさかのぼること数時間前・・・



シャチは独りで森を散歩していた。いつもなら必ずといっていいほどペンギンが横にいる。しかし、今朝は彼が忙しくしていたこともあり、“たまには独りでのんびり散歩でもするか”と思って船を降りたのだ。
この島の面積のほとんどは、緑が豊かな森で、シャチは胸いっぱいに緑に満たされた爽やかな空気を吸い込む。小鳥のさえずりが耳に心地よい。実にぜいたくで優雅な一時だ。思わず笑みをこぼすシャチだったが、そんな彼の幸せを殺気に満ちた気配がぶち壊した。誰かがつけてきている。

島の者か同業者かは解らないが、それは確実にこちらに近づいておりシャチは背中に視線を感じながら足を早めた。どんどん縮まる気配との距離・・・

狭い森では戦いづらい。“もう少し広い場所に出られたら”と思った途端、彼の視界が開けた。切り開かれた場所に出たのだ。シャチは、さて謎の敵を迎え撃つぞと後ろを振り返った。そんな彼の目に、不意に一匹の蝶が映りこむ。華やかな羽をひらつかせて、シャチの眼前をフワフワと舞う。普段は虫になど気に止めない性分なのに、何故か目が離せない。そこに産まれてしまった隙・・・

敵はそれを見逃さなかった。黒いマントを着たその男が、シャチの前に姿を現した途端、一匹だった蝶が何十匹にもなり、勢いよく彼にりん粉を浴びせ始めたのだ。
手で蝶達を払うがとても追い付かない。もがく彼の意識はもうろうとし始めた。そのりん粉には毒があるらしい。体も徐々にしびれて来て、呼吸が浅くなる感覚がする。視界も揺らぎ始めた。シャチは“クソッ”と小さく悪態をついてその場に倒れこんだ。その体に蝶達がたかる。マントの男は動かなくなったシャチにゆっくり近づくと、その口を嬉しそうに歪めた。

「被検体ゲット・・・」
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