あいうえお順に進む46のお話達

□酒に頼らずとも
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綺麗な満月の夜には、何時にもまして目が冴える。海上をゆっくり進む船の甲板に出て、船長であるトラファルガー・ローはしばらく月を眺めた。真っ暗な海に向かって溜め息を一つ吐き、食堂へと足を向ける。酒を取りに行くために・・・

そもそも眠りが浅く、不眠症なのだが最近ことさらひどかった。酒を飲まねば眠気が微塵もやって来ない。酒を摂取して眠りに落ちるのは“睡眠”ではなく“気絶”らしいが、全く眠らないよりいいだろう。
ローは一番度数の高い物をチョイスすると、その場で栓を抜きラッパ飲みしながら自室に向かった。連日の寝不足があいまって酔いが早く回る。ふらふらとしながらノブに手を掛け部屋に足を踏み入れると、一気に瓶の中身を喉に流し込み勢いよくベットに倒れ込んだ。力の抜けた手から瓶が転げ落ち、隅に溜まった連日の残骸に音を立ててぶつかりまた空瓶が増える。目の端でそれを捉えながら、自嘲的な笑みを浮かべて彼は目を閉じた。



次の日の朝、ベポに起こされ目が覚めた。

「キャプテ〜ン朝だよ〜そろそろ起きてよ〜」

ゆさゆさと揺さぶられゆっくり目を開けると、ベポの心配そうな顔があった。それもそうだろう。普段なら誰かが部屋に入って来た時点で自分は目が覚めるのだから・・・それはベポだけでなく全ての船員が知っている。それくらい当たり前の事なのだから心配されても仕方ない。

“ベポが入って来た事に気付かなかったという事は、やはり“睡眠”ではなく“気絶”だな”

ローはボンヤリする頭でそんなことを考えながら、ダルい体を起こしてベポの頭を撫でてやった。


その日の晩、やはり眠気が来ないローは読書をしながらひたすら眠気を待った。

“そもそもどうしてこうなった?”

ローはふと文字から視線を外して考えた。何時から眠れなくなったのか・・・何か原因があるはずなのだが・・・記憶の糸を手繰り寄せる。
しばらく考えていたローは“そうか”と呟いた。記憶の扉がゆっくり開いた。

“夢”だ・・・嫌な夢を見たんだ・・・

そう、きっかけはある晩に見た夢。認めたくなかったが自分はその夢を恐れている。夢魔を恐れているのだ・・・

自分達が殲滅させられる夢だった。目覚めた時、自分の目からこぼれ落ちる涙に驚いた事を覚えている。忘れていたはずの夢が脳内でフラッシュバックする。体が震えだし冷や汗が流れた。
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