ハートの航海の記録

□ペンギン
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俺に幼い頃の記憶はない。ただ覚えているのは顔の分からない女性の涙と、その手のぬくもり・・・


目覚めると、知らない家の天井。知らないおじさんとおばさんの顔に、沢山の子供たちの顔。寒い朝だった・・・

俺は親に捨てられたのだ。孤児院の前に・・・

孤児院の人達は優しかった。子供たちも似たような境遇の奴等ばかりだったが、明るく元気に生活していた。でも、時々寂しい気持ちになる事はあった。そんな時は、仲間達とこっそり傷の舐め合いをする、そんな日々だった。

孤児院の院長は医者で、孤児院はその病院付属のものだった。そこの息子のローは、俺よりも年下だったが、幾分実年齢よりも落ち着いて見えた。彼は、どことなく人を引き付ける何かを持っていた。
院長の息子だからと偉ぶる事もなく、孤児の誰に対しても対等に接していた。しかし、同じ孤児院の仲間であるシャチと俺は、彼と年が近い事もあり特に仲良くなった。よく、ロジャーを真似て海賊遊びをしては院長先生に怒られたものである。何の変化もない日々だったが、それなりに幸せだった。しかし、その平和な日々は突然打ち崩された。

院長夫妻が、海賊達に殺されたのだ。そして、海賊達をローが殺した。
真っ赤な血が真っ白な雪に広がって・・・
俺は何も考えられなくなってその場に立ち尽くした。
ただ、頬に涙が伝った。


ローは俺たちを連れて海に出た。みんな行くアテもなかったし、何よりローのことが好きだったから、誘われるがまま船に乗ったのだ。期待と不安に満たされた事を、今でも覚えている。

航海初日、俺は航海士に任命された。唯一航海術を持っていたからだ。
しかし、それは独学で身に付けたものでどこまで通用するのか分かったものではなかった。不安はあったが一つ返事で引き受けた。自分で旅をして、海図を書くことは俺の密かな夢だったからだ。
何よりローの夢を叶えてやりたかった。彼はワンピ―スを見つけたいと話していた。彼の為ならなんだってやってやる。

この想いは、決して口にする事はないけれど・・・俺は貴方のために命を賭して散りゆきたいのです。


〈End〉

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