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□乙女ゴリラと梅雨会議
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天気はあいにくの雨。
そらゃ梅雨ですからね。
後で本日三回目の廊下掃除しなきゃな…。
ってことで雨で濡れている廊下に行ったら。



『秀吉………様?』

豊「何か用か」

『い、いえ。ただここの廊下を掃除しようと思いまして』

豊「お前は梅雨が好きか?」



何を言い出すかと思えば。
意味がわからない。
出会ってまだ数秒しか経っていないのに。
ってか雨で濡れてますよ秀吉様。
なんでこんな廊下にいるんですか。
とりあえず答えないかぎり退いてくれそうもないので真剣に答えてみよう。



『好きではありません』

豊「何故」

『髪の毛がうまく纏まらないからです』

豊「そうか、」



そう言って大きな手で顔を隠してしまった。
ゴリラも梅雨には弱いのか。
そうだよね。
ゴリラだもん。



豊「梅雨は我が一番嫌な季節だ」

『そうなんですか』



どうでもいいから、そこを退いてくれ。
廊下掃除ができない。



豊「髪がうねうねしてしまい上手く結えぬのだ…」



なんだこれ。
髪の毛の話?
あれ?
なんでこんな会話になったのかな?



豊「唯一勝てないのは湿気のみ」

『それは誰も勝てないでしょうね』



すると秀吉様が顔を上げ、コチラを睨んできた。
この人視線で人を殺せるよ。



豊「我の愚痴を聞いてはくれぬか」

『え、愚痴?は、はい』



城主に頼まれて断る人間などいない。
私は秀吉様の愚痴を聞くことになったのだ。







乙女ゴリラと梅雨会議







立ち話もあれなので、私たちは雨で濡れてない廊下を探して体育座りしている。



豊「我は知らなかった……」

『何がですか?』



ポツリとしゃべり始めた秀吉様。
なんで私が城主の愚痴を聞いてるんだろう。



豊「まだこのように国として纏まりがない頃からの付き合いだったのにな…」

『半兵衛様ですか?』

豊「ああそうだ。奴は我と同じ悩みを持っていると長年思っていたのだが…」

『……?』



まさか国の方針で考えが別れたとか?
いやいやいや。
そんなことはないよね。
あったら困るわ!



豊「奴も苦しんでいるのかと思えば……」

『えっと……何がですか?ものすごくくだらない事だとはわかってますけど……』

豊「半兵衛は………、半兵衛は湿気による被害を受けたことがないと言うんだ!」

『やっぱり心底どうでもいい事ですね』



予感的中だよ!
ってか最初の時点からおかしかったんだよ!



豊「半兵衛も湿気に困っているのかと尋ねてみれば、特に困ってないと返ってきた」

『意外ですね半兵衛様。湿気による被害が一番凄そうなのに』

豊「我もそう思っていたのだが、特に気にしたことがないそうだ」

『それは確かに羨ましいことですね』

豊「我にもその髪質があればもっと早く天下を手に入れられるはずだ…」

『え?天下統一って髪質で決まるんですか?』

豊「梅雨の戦は髪型が気になって戦いどころではない」

『お前は武将だろ』

豊「伊達のさらさらが羨ましいことよ…」



そう言って項垂れるゴリラ。
ちょっとは同情するが、髪の毛を気にして戦に負けたとかはやめてください。



『伊達さんを見たことがないので何とも言えませんが、毎日ちゃんと秀吉様の髪型は整っていますよ?』

豊「結うのに一刻は費やしている」

『お前は乙女か。乙女なのか』

豊「こないだの戦で出陣を遅らせてまで我は髪を結っていた」

『自慢にならないですよ。半兵衛様に怒られなかったですか?』

豊「“あ、うん。髪ね。うん…………髪!?”と承諾をもらった」

『ちょ、半兵衛様を動揺させるってすごいですよ!?』

豊「皆待っていてくれたぞ」

『豊臣軍って優しさの塊ですね』

豊「そしたら武田軍は帰ってしまった」

『ちょ、え?』

豊「すると武田の忍が来て“はいこれ。うちの大将から。なんて言うか………頑張ってね豊臣軍の方々”と言い残し結紐を届けてくれた」

『武田軍優しい。優しすぎる』

豊「少々見直した。半兵衛など感動のあまり泣いていたぞ」

『それは策が流れてしまったのと秀吉様のお馬鹿ぶりに泣いたのだと私は思います………ってか、半兵衛様って泣くの!?』



お疲れ様です半兵衛様。
秀吉様は本当にいい親友を見つけましたね。
私だったら殴りますよ。



『半兵衛様に日頃の感謝を込めて、何か差し上げてください。そうじゃないと半兵衛様がいつかキレると思います』

豊「そうか…」

『給料上げてあげるとか色々ありますよね』

豊「それならいつもの給料に何か付けよう」

『あ、それいいですね。領地とかですか?』

豊「結紐だ」

『ちょ、それはイジメだ!!』



秀吉様と別れ、私は半兵衛様に半兵衛様が好きなお菓子をドッサリ持っていったのだった。




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