『よっしゃ!村の子供たちの欲しいものが全部そろった!!』
「俺に感謝しろ」
『サンタ界と戦国時代の往復を何十回もありがとうございました』
「わかりゃいい」
とある師走の素敵な夜の出来事
日付はクリスマス。
時は戦国の午後五時。
少し外が暗くなってきた。
そしてただいま小屋の中にいます。
ちょうど空き家だったんだよ。
家じゃなくて小屋だけどね。
この一ヶ月間。
私はずっとこの村に留まり、子供たちに欲しいものを聞いて回った。
そして子供が欲しがっているモノをサンタセンターに発注し、片倉さんが注文したプレゼントを取りに行くという工程をすべて一ヶ月でクリアしたのだ。
片倉さんには何十回も往復していただいた。
さすが片倉さん。
体力ハンパないです。
ありがとうです。
『早く夜が来ないかなー』
「一日が一時間だったら早くくるぞ」
『うん。そんな世界住みたくないね』
「にしても大量に同じ箱があるな。中身は何なんだ」
片倉さんは袋を勝手にあさり、一つ箱を開けた。
入っているのはコマ。
「まさか全部コマなのか。ってかなんでこんなショボいコマなんだ。もっと綺麗なコマがあっただろ」
コマは茶色。
ちょっと赤い色が混じってる。
私も受け取った時にダサいと思ったよ。
もっと豪華なコマかと思ってたからさ。
ピンクとかオレンジとか水色とか可愛い色かと思ってたよ。
『知ってるかい片倉さん。今の若者にはコマが流行らしい。この村の子供99%がコマを欲しがった』
「で?」
『生産が間に合わなかったらしい。でもそのコマは誰が回しても簡単に回る設計だから機能は抜群だってさ』
「見えないところにさりげない優しさか……で、残りの1%は?」
『婆裟羅技だって』
「ば、ばさら?」
『なんか片倉さんみたいに雷出したりするやつだってさ』
「俺のは生まれつきだ。あげられるもんじゃねぇぞ」
『うん知ってる。だからコマをあげるんだ』
「おい」
『じゃあどうすればいいのさ』
「コマでも与えとけ」
『おい』
片倉さんは小屋から出てタバコを吸いにいった。
最近片倉さんが冷たい気がする。
ってか最近の片倉さんは角を付けてないし、全身タイツを脱ぎ捨て、髪はオールバックになり、サンタの服を身につけるようになった。
風の噂で聞いたのだが、サンタの資格を取得したらしい。
あれ?
いつの間に?
パートナーの私は聞いてないんですけど。
ってか私、いらなくない?
あれ?
『まさか片倉さんは政宗を目指しているのかい?あんなチャラチャラした男を目指すとかやめときなよ片倉さん。いやいやいや。片倉さんはそのままでカッコいいからさ』
「えー。あの人、怖そうにしか見ないよ俺様」
『いや、片倉さんはメチャクチャ優しいから。私のために逆チョコとかくれたから』
「佐助!ぎゃくちょことはなんでござるか?」
「俺様が知るわけないでしょ、っと」
あれ?
私は誰と会話してるの?
ってか、
『ぎゃぁぁぁ!!ちょ、刀!刀!刀!危ない!首に刺さったら死ぬって!』
「殺さないよ。俺様たちの質問に答えればね」
「手荒な真似を許していただきたい」
首元で光る小さな刀と逃げられないように首に回された見知らぬ腕。
そして背中には人の温かさ。
目の前には槍を持った青年。
え、え。
『いやいやいや。これはない。これはないよ』
「某は女性にこのような真似をしたくはないが、この国を危機に陥れようとしている者を見過ごすわけにはいかぬ。暴れなければ何もせぬ。大人しく答えてくれ」
「俺様は一人で来たかったんだけどさ、旦那が煩くて」
「佐助はどんな手を使ってでも吐かせるからな。まだ疑いの段階なのだからそこまでのことをするのは気が引ける」
「本当にぬるいよねー。そう思わない?」
『そうですね、思います』
「あんまり怖がってない感じ?」
『私の胃の中のクリームシチューがリバースしそうです』
「よくわからないけど、怖いんだ」
『はい』
「最初の質問。君たちは何をするためにここに来た」
『夢を与えにきまし、』
首に回された腕に力が込められた。
苦しい。
ってかこの人石鹸の香りがする。
「佐助、」
「はいはい。次、ふざけたこと言ったら刺さるかもよ」
ふざけてないよバカ野郎!!
いたって真剣だ!
サンタは不死身じゃないから刺されたら死ぬんですけど!!
「で、答えは?」
『お仕事で来ました…』
「次、なんで一月前に城に潜入した」
「そなたが佐助を気絶させたとは思えぬな…」
「この子じゃなくて、全身茶色の男がいたの!その人に気絶させられたの!一月前からずっと説明してるじゃん!ちゃんと聞いてて旦那!!」
「す、すまぬ…」
すっかり忘れていたが、片倉さんは?
タバコ吸うにしては長すぎる。
何十本も一回に吸わないだろうし。
もしかして……。
いやいや。
片倉さんに限ってそれは……。
こうなったら賭けだ賭け!
『片倉さんは、無事ですか?』
どうか刺されませんように!!
「かたくらさんって言うんだ」
「あの方にもそなたと同じことを聞いている」
『殺されたり、してないですよね…?』
「さあ?抵抗するようなら殺すように命令はしてるけどね」
ダメだ。
片倉さんは確実に抵抗してるよ。
いくら強くても戦国を生き抜いてる人に勝てるはずがない。
『かた、くらさん、』
「ま、まだ亡くなったとは決まってないでござる!泣かないでほしい…」
「旦那はどっちの味方なの…」
「某はお館様のために!!」
「じゃあ涙に惑わされないようにね」
あれ?
泣いてる?
嘘だ。
いや、嘘じゃないや。
『うそ、だ…』
「君が質問に答えたら会えるかもよ?」
『片倉さんが抵抗してないはずがない!!』
「ちょ、少しは信じてあげなよ!」
『片倉さんのバカ野郎!!』
「誰がバカ野郎だって?」
『片倉さんだよ片倉さん!私に黙ってサンタの資格を取りやがって!!私が必要ならいなら面と向かってハッキリ言えよバーカ!!………って、あれ?』
「ほー。お前の言いたいことはわかった。とりあえずそこの迷彩と赤色の奴をぶっ潰してからゆっくり話し合おうか」
『ひょえー…』
「ちょ、なんで生きてるの!?」
「俺を倒したいならあの10倍は持ってきな!!」
「ちょ、ぎゃぁぁぁ!!」
「見事な剣さばき……いや、葱さばきでござる…」
「てめぇも葱の餌食になりたいか?」
「い、いやでござる!帰るでござる!!」
「旦那の裏切り者!!」
迷彩と赤色は帰っていった。
ちょ、私も連れて帰って。
お願いだから連れて帰って。
「邪魔者は消えた。ゆっくり話し合おうか」
おそらく勝手に誰かの畑から収穫してきたであろう葱をソッと袋に入れ、腰が抜けて立てない私に近付いてきた。
『いや、クリスマスだし、早く配らなきゃならないし。早くしないとアフタークリスマスになっちゃうし』
「お前が理由を話せばすぐに終わる」
『ですよねー』
「で、バカ野郎の理由はなんだ?」
片倉さんは、床に座り込んで下を向いている私の顎に手をかけ、上に持ち上げた。
オールバックからこぼれた髪の毛が怖い。
激しく怖い。
顔が怖い。
どうせ怒られるならハッキリ言ってしまおう。
『………だって片倉さん。私の知らないところでサンタの資格を取ってるし、私が必要ないなら言ってくれればいいのに。その変な優しさがバカ野郎だよ』
「バカ野郎はお前だ。なんで資格のことを知ってやがる」
『政宗が黙っていられるわけがない』
「………」
『私が必要ないなら言ってくれればよかったのに、』
「誰が必要ないなんて言った」
『バーカバーカ』
「ほぉ?」
『すいませんすいませんすいません』
「てめぇが勝手に突っ走るからだろうが」
『は?』
片倉さんは呆れたような顔をして、私の頭を撫でた。
「お前は誤魔化すのが下手だ」
『ギクッ』
「子供たちに好かれるが、欲しいものを聞いたあとの対応が下手すぎる」
『うぅぅ…』
「逆に俺は子供に好かれないが誤魔化すことに関しちゃ右に出るものはいない」
『さすが政宗のお世話役…』
「だがトナカイがフォローするなんておかしな話だしトナカイに負けるサンタなんて噂が広まったらお前が泣くのはわかってる」
『私のサンタとしての面目が丸潰れですからね』
「だったら同等の立場になりゃいいだけの話だろ」
『へ?』
「二人で一緒にサンタをやりゃいい」
『え、え?』
「手、出してみな」
勝手に片倉さんに左手をとられ、薬指に冷たい物体がつけられる。
「さ、プレゼントでも配りに行くか」
私は薬指を見つめた。
あれ?
これは俗にいう指輪ってやつ?
あれ?
片倉さんに目を向ければ、“早く背中に乗れ”と言ってくる。
うわぁぁぁ!
いつも以上に恥ずかしい!
なんか告白まがいな事をされたら誰でもそうなるよね!?
あれ?
告白?
『こくはくぅぅぅ!?』
「早く行くぞ」
『待って!待って!まだ問題は解決してない!!』
「解決した」
『してない!まだ片倉さんからちゃんとした告白もされてないし、私もまだ返事してない!!』
「お互い言わなくてもわかるだろ」
『私バカだからわからないもん』
「てめぇ…」
『ちゃんと好きって言ってよ片倉さん!』
「んな恥ずかしいこと言えるかってんだ」
『片倉さん!!』
「うっせぇ!!」
戦国時代の子供たちにコマが配られたのは26日だったとか。