書
□二話
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平穏は突然にして崩れさる、と誰かが言った。
この言葉を残した人物に何があったのかは解らないが、もしかしたらなにか予期せぬ不幸に見舞われたのかもしれない。
しかし、客観的に見て、少なくとも一般的な『平穏』の基準には確実に当てはまらない人生だったと、千和は思う。
……母親は自分を棄て逃げた。
十数年前、外見だけは美しかったその女は、大企業の御曹司をコロリと騙し、千和を“既成事実”として作りあげた。
女は“責任”という言葉を振りかざし、
散々に騒ぎ立てて、最終的に慰謝料をガッポリGETしてそのまま、蒸発。
以来、その女の行方を知る者はいない。
そして、大切な跡取り息子をたぶらかし、金を奪い、挙げ句手の掛かる子供を押し付けて逃げた女に父親側の親族は大激怒。
女は“疫病神”と呼ばれ、“疫病神の子供”の自分は“置き土産”として、物心ついたときからずっと疎まれに疎まれ続けて生きてきたのだから。