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□波弥さんから、ヴァレンティーノ小説
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(渡せるかな…)
ヴァリアーの本拠地の、とある部屋のすこし離れた廊下の一角にて。
不審者が逃げ出しそうなくらいのオロオロとした不審っぷりで、その部屋のドアをちらちらと眺めているのは…。
(渡せるかな…)
アルコバレーノの一人、マーモンだった。
どうしてマーモンが不審者もどきになってしまったのか。
話は数日前にさかのぼる。
「ムムッ…やっぱり上手くいかないよ」
ヴァリアーのアジトの厨房で、白いエプロンをしたマーモンは一人呟いていた。
彼女(?)の前には、焦げた茶色い物体がいくつもあった。
「バレンタインは明後日だっていうのに」
どうやら2月14日に向けてチョコレートを作っているようだ。
しかし、赤ん坊の身体では上手く作れない。
(どうしよう…)
マーモンが思案していた時、パッと電光のように老けた知り合いの顔が脳に浮かんできた。
あいつに会いに行くしかないか…。
そう思い、マーモンはとある人物のもとへ向かった。
「お前が会いに来るなんて珍しいな」
「うるさいよ」
とある人物とは、アルコバレーノのヴェルデ。
何故ヴェルデなのかというと、
「早く大人に戻る薬をちょうだい」
つまりそういう事だった。
赤ん坊だから料理が上手くいかないのであって、大人になってしまえば平気だ。
しかし、その方法は今の所、「自称天才研究者」のヴェルデが作った薬を服用する以外にない。
そんな訳で、ヴェルデの所にマーモンはいるのだった。
「しかし…あの薬は高いぞ?」
高い、という言葉に一瞬ぴくりと体を震わせたマーモンだったが、
「そんな事より早く!」
薬を要求する。
そんな彼女を見て、ヴェルデh何か思うような顔つきをしてから言った。
「分かった。金は、後で口座に振り込んでおいてくれ。…それにしても、金が命のお前が―」
「うるさいよ」
「はいはい」
ヴェルデは、薬を取り出すために部屋の奥へ引っ込んだ。
数分後、再びマーモンの目の前に現れた彼は、何やら怪しげなビンをマーモンに渡し、
「効果は半日だ」
そうささやいた。
「分かったよ」
マーモンは去っていく。
極力興奮を抑えようとしているが、にぎみ出る喜びがマーモンの足取りを軽くしていた。
残ったヴェルデが呟く。
「金が命の、あのマーモンがわざわざ高価な物を買うなど…。バレンタインが近いだろうか。マーモンがそこまで―」