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□温かい手
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放課後の教室
窓の外

手を繋ぎ歩く恋人達








私のクラスは1年生なのに2階にあって
窓から下を覗き込んでも、教頭のバーコードも丸見えになっちゃう距離で

飛び降りたって死ぬ事も、出来ない。
死にたい訳じゃないけど。



真っ白なマフラーが似合う可愛い女の子と、深緑のマフラーをした男のカップル。

初々しくも頬を染め、指を絡めての下校。

何事かを囁き合って、微笑む。
温かい光景。


その2人に向かって左手を伸ばして
握り締めた。

風さえ掴めず、重なり合う
陰。


ふと、疑問に思い
共に教室に残った友達に声をかける。


「ねぇたつきー」
「何?」
「あたしって彼氏居ない歴どん位だっけー?」


机に額が引っ付きそうな位真剣にプリントとにらめっこをするたつきは、はぁ?と顔を上げて答えた。


「2日でしょ?
どしたのよ」
「じゃあさーあたしの元ダーリンも彼女居ない歴2日な訳ですよねー」
「そりゃあね」


そう言ってからまたペンを取って慣れない格闘を始めた。


 

「じゃあなんでああやってラブラブしながら帰ってんのかねー?」
「そうだねー……
…はぁッ!?」


突然椅子から立ち上がり、よろけつつあたしの隣にやって来て
窓から顔を出す。

たつきの視線を釘付けにしたのは白マフラーと深緑マフラー。


「うっそ…あれって陸マネじゃん…」
「『やっぱり好きじゃなかった』とか言っちゃってさー、浮気してたんじゃん」


明日クラス行って金巻き上げて来よう、とひとりごちて居たら、たつきが戸惑いがちに尋ねて来た。


「あんた…我慢してない?」
「何をー?ってか、たつきそろそろ部活行かないとヤバくない?」


あたしの返答に、急いで時計を見るとバツが悪そうにしている。


「早く行きなって、期待のエース」
「うん…何かあったらすぐ電話しなよ!」


じゃあね!と言い、鞄と道着を担いで早足に教室を出て行くたつき。


それとほぼ入れ違いに、入って来たオレンジ。


「うっわ…たつきの奴、あんな急いでどうしたんだ?」
「明日のプリントやってたら部活に遅れそうになっちゃってさ」
「アホか」


ところで一護はどうしたのー?と聞けば、忌々しそうに益々眉を寄せた。


 

「生徒指導に捕まってた」
「あー…あいつ今奥さんに浮気バレたらしいからね、八つ当たりされちゃったんじゃない?」
「冗談、迷惑過ぎだっつーの」


そう言って前髪をかきあげるから
ああ、苛々してるんだなって伝わって来た。

なので、かざごそとブレザーのポケットを探って
ひとかけらの幸せを差し出した。


「可哀想な一護にあげよっか、イイ物」
「イイ物?」
「手ー出したらあげる」
「変なもんだったらパンチな」



差し出された左手に微かに触れた
指先、


恐る恐ると言った調子で、そっと左の手のひらを覗き込んだ。


「…チョコ?」
「最後の1個だけど、一護にあげるよ。
あたし優しいから」
「おー、優しい優しい。」


ぽんぽんと、頭の上から大きな手のひらの感覚がして
なんとなく不服だ。


「お礼はどうしたのかなー?」
「サンキュな」
「よろしい」


あたしの気取った口調に笑ってから、心持ち嬉しそうに包み紙を外して
少し大きく開いた口に放り込んだ。


 
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