short
□not reply
1ページ/1ページ
「貴方は何時だって痛々しいわ」
吸い込まれる様な闇色を纏った男に言ってやった。
そう、貴方が黒を着るは喪に服しているから。
此の世の美しいものだけを集めて詰め込んだみたいな“彼女”の為に。
「そうやって彼女を想い続ければいいのよ」
長い髪を翻して、真っ直ぐに前を見つめていた彼女。
何の間違いも犯さなかった彼女の唯一の『間違い』として、彼女の唯一の『弱み』として。
男は何も言わないで、滅多にしない悲しそうな瞳で私を見ていた。
私、だけを。
その瞳の中に彼女を感じた。
「ねえ、彼女を愛してた?」
向き合った視線に欲しかったものは見つからなくて、もう呼吸が出来ない位こめかみがドクドクと脈打っていて、反らした先には爛々と輝く中庭が見えた。
晴れた休日はよく一緒に散歩をした。
空に漂う彼女の髪からはいつも良い匂いがしていて、とっても心地良かった。
「…ねえ、彼女は幸せだったと思う?」
笑ってブーケを投げていたね。
白のドレスで誰よりも綺麗だった。
少し膨らんだお腹を撫でては頻りにはにかんでたね。
二人の家には可愛らしい花がたくさん咲いていて、いつだって笑い合っていたね。
リリー、あなた幸せだった?
芝の蒼さも風の薫りも、日の温かさも変わらない此処で、
変わってしまったのは私かもしれない。
何一つ変わってなどいないのに。
もしも叶うなら、出逢いからやり直したい。
否、それよりももっと前、始めからやり直したいの。
それなら
今度は
もっと、上手に