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□お昼ご飯と書類と恋心
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数少ない年の近い女友達が、いきなり笑みを深めて私の後ろを顎で示した。
よく分からないが、『後ろを向いて』と目で訴えられているのでそちらを振り返ってみた。
「…!」
私達が座っているテーブルの隣、私の真後ろに、教団を代表する苦労人が居たのである。
私の目の前に座る女友達が言うには最近の科学班は異常な程に忙しいらしく、なるほど、彼は食事の時間ですら書類に目を通している。
(ど、どうしよう…)
エクソシストとして各地を飛び回っている私が科学班とそれ程親しく出来ないのは当たり前の事で、元来の性格も手伝って、私はあまりこの人とは仲が良くなかったりする。
だけど、だからといって私が彼を嫌いなのかと言えば、全くそうではなくって。
むしろ、想いを寄せていたりする。
どうしていいか分からずに再びリナリーへと向き直ると、やっぱりリナリーはまだクスクスと笑っていて、『話しかけないの?』だなんて小声で聞いて来る。
「だって…なんて話しかければいいの?」
「隣に座って、お疲れ様とか」
「え、ええ!隣なんて無理!」
「出来るでしょ、ラビや神田には」
「…班長には無理!」
激しく首を振る私を見てリナリーはちょっと大げさにため息を吐いた。
「…何であなたって肝心な所で可愛らしさを発揮するの」
「ただ臆病なだけです」
「…もう、仕方ないな」
またため息を吐いて、リナリーは席を立った。
「え、リナリーどこ行くの?」
気を悪くしたのかと心配して声をかければ、リナリーは食べかけの昼食のトレーを、意外と近くの席で見ているだけでお腹一杯になってしまう位ご飯を食べているアレン君に渡していた。(アレン君は嬉しそうに瞳を輝かせてリナリーの残しものを平らげた)(もう残飯処理機扱いだよね)
それからテーブルを回り込んで、喧騒の中黙々と仕事をこなすリーバー班長の元へと向かった。
何事か話しているのだが、アレン君がご飯を食べる音でよく聞こえない。
(…いいな、リナリー)
リナリーみたいに、可愛らしい女の子だったら良かった。
そうすれば今みたいに、自信のなさでもじもじしたり、強がったりしなくてもいいのに。
リーバー班長とリナリーの会話は意外と短めに終わり、リナリーは私ににっこりと綺麗に可愛く笑って食堂を後にした。
出口に向かう間にも、教団のアイドルのリナリーはたくさんの人に声をかけられて、笑顔を振りまいて行った。(私の場合、勇ましく『おお』とか『ちわー』とかしか言えないのに)
リナリーの後ろ姿をじっと見つめていたら、空いていた隣の席に誰かが座った。
「ここ、空いてるよな?」
声にびっくりして見てみれば、さっきまで真後ろに居た筈のリーバー班長。
「…え、え!」
「やっぱダメかな?」
「ぜ、全然ダメじゃないッス!」
「………」
「………」
や っ ち ゃ っ た !
昔から男の人が苦手だった私が、その対処法として編み出したのが『女扱いされない事』だった。
私がリーバー班長になかなか話しかけられないのは、思わず出てしまう男口調を聞いてほしくなかったからだったりするのだ。
「じゃあ遠慮なく」
「…はい」
しかしリーバー班長はそれには全く触れず、また書類と格闘し始めた。
せっかくのご飯はもう冷め始めている。
「…大変そうですね」
「あ、気になるか?」
「いえ、…でもご飯食べた方がいいんじゃないですか?」
「うーん…そうしたいのは山々なんだけどな、書類が」
班長は未だに書類を見ていて、私はやっと初めて出来た班長との会話に喜ぶのもつかの間、なんだかムカムカしてきた。
「ダメです、ご飯が先です」
「いや、あのな」
「いいから!」
班長の手の中から大量の書類を奪った。
思いもかけない私の行動に、班長はびっくりしてしまっている。
「休む時は休む、これ常識です!ちゃんと休憩入れないと倒れますよ!」
「………はい…」
初めての私のお説教に、最初は目が点になっていたリーバー班長は、最後にはよく分からない笑いを漏らした。
なんだかよく分からないが、私が想っていたより、班長は私を悪く思ってはいないみたいです。