short 3

□迷子の功名
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誰に助けを求めればいいんだろう
今までの自分の人生で、これほどのピンチはなかった
いやマジで


中学校で仲の良かった友達が一年間のアメリカ留学をする事になった
昔から頭が良くて、特に英語が得意だったから、その話を聞いた時はやっぱりかぁと納得した
頭良いやつは違うなぁ、私ももうちょっと将来の事考えないとなぁと感心してた

それから数ヶ月後、その友達から長期休暇を利用して遊びに来ないかとお誘いがあった
友達のホームステイ先の家族がせっかくのクリスマスなんだからお友達でも呼んだらどうだ?と言ってくれたらしい
友達は私ともう一人、中学時代に仲良しだった子を誘ってくれた
海外で過ごすクリスマスだなんて素敵!と、私はすぐに両親にその話をすると、両親もなかなか機会がある事ではないしと許可してくれた
英語がさっぱり出来ない私だけでは到底アメリカまで辿り着かないだろうからと、両親は一緒に旅行に向かう友達に私の事をよろしくと頼んでいた

…そりゃあ、私の英語力は小学生もびっくりなレベルですよ
おはようございます位しか言えません
あ、自己紹介はギリギリ出来るかも
 
まあそんな海外に行かせていいか不安な私を引き連れて、友達とのアメリカ旅行が始まったわけです



…が、時差ボケの頭痛もいくらかマシになった二日目
ホームステイ先近くの大きな街に友達と三人で赴き、ハンバーガーショップで昼食を取り、ブラブラと街並みを楽しんでいた
途中で食べたドーナツが甘いのなんのって、虫歯になるかと心配になる位だった
赤や緑で木という木全てをデコレーションし、柱という柱全てを青色のLEDを使用したイルミネーションで飾っている
通りのアチコチにはアーティスティックなオブジェがたくさん建てられていて、日本とは違うなぁと妙な感動をしていた

それがいけなかったらしい
気が付いた時には英語ペラペラな留学中の友達も、英語がそこそこ話せる友達も、私のそばに居なかった
予想外の事態にせわしなくキョロキョロと周囲を伺う私の目の前を、背も鼻も高いいかにも『外国人』な人達が友人や恋人や家族とお喋りを楽しみながら通り過ぎて行く


「ど、ど、どうしよう…!!」


私は泣きたくなった
本当に、謙遜抜きで英語が喋れないのだ
英語が話せる子と行くからって、旅行者向けの英会話本を買わなかった過去の自分を恨んだ
でも後悔したって遅い
友達のホームステイ先がある高級住宅街で迷子になったんじゃない、ここはたくさんの異国人が行き交う大都会の真ん中だ
私のようないい年して迷子になる英語もろくに話せない鼻ペチャな日本人を気に掛ける人なんていないのだ

…少し悲観的になりすぎているようだ
だが、海外に対応している携帯を持っていないので友達と連絡の取りようがない
交番に行けばいいじゃないって?
馬鹿を言わないでくれ、私はビビりだ
アメリカ人だらけの(アメリカなんだから当たり前だが)交番だなんて怖くて入れない
最悪ピストルで撃たれるかも知れない!

と、とりあえず、どうすればいいんだろう?
まさか迷子になるとは思っていなかったからはぐれた時の集合場所を決めていなかったのだ
友達を探すために一人でウロチョロしたらそれこそ一生友達に巡り会えない気がする
ここは無難にこの場所で友達を待つべきだろうか…


「Excuse me.」

「………はい?」


これからどうしようかオブジェを見ながら考えていると、後ろから低い声がかけられた
思わず日本語で返事をして振り向くと、相手のコートしか目に入らなかった

そうか、外国人に話しかけられたんだ!

慌てて目線を上に上げると、彫りの深い顔立ちで、柔らかい色の髪を逆立てている男性が目に入った
服にあまり詳しくない私でも一目で上等な物だと分かるスーツの上に、これまた暖かそうなコートを着ている
ビジネスマンだろうか?


「What do you do to such a place alone?」

「え、え、え?」


何やらまた早口な英語で話しかけられた
実際は早くもなんともないのだが、英語がサッパリな私にはとても早口に思えた
あたふたとしている私を見て相手はまた言葉を重ねた


「…Are you Japanese?」

「えっ!」


これはいくら私でも分かった
さっきよりも男性がゆっくり喋ってくれたのもあるが、これは小学生でも分かるだろう
そうです、私は日本人です!
と言いたかったが、従姉妹の話を思い出した
高校の卒業旅行でアメリカに行った時、現地の男性に『日本人か?』と尋ねられたらしい

 
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