short 2
□帰ろうって
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帰ろうって、あそこはお前の家ですか
五回目のコール音の後、出たあいつが憎たらしい
なんであいつはこんなにも、あたしの心の隙間にぴったりフィットするんだろう
「よぉ」
「…やってるねぇ」
佐助は私が座っている席を見渡してそう言った。
もう午前二時を回っているというのに、私の目の前にはピラフやハンバーグやパスタやサラダやピザ、フルーツパフェに杏仁豆腐まである。
普段なら『ダイエットはどうした!』とうるさく言われるのだけれど、そんな奴はもう、あたしの傍には居ない。
「あんたも食べる?」
「いや、さすがの俺様も遠慮させて頂くわ」
「この根性なし。お前のそういう所が嫌い」
「…え、いきなり駄目出し?」
佐助はあったかそうなコートを椅子の背もたれにかけて、当たり前のように私の真正面の席に腰を下ろした。
「嫌い、こんな時間にスウェットじゃなくちゃんと服着てる所とか」
「スウェットで出歩いたらうるさいのお前だろ」
「地毛で赤茶な所とか、俺様って言う所とか、人の水にこっそりガムシロップ入れる所とか」
「あれ、前にした時バレてた?」
あっちゃー とか言っているけれど、全く悪びれた様子もない。
きっと油断したらまた何か悪戯されるんだろうな、と思いながら、暖かい店内の空気に汗をかいたコップを見つめる。
「彼氏と別れた」
「………」
「他に女作って、だから別れてほしいって」
佐助は少し驚いた表情を作った後、気まずそうにコップを見ている。
「ま、別に好きでもなかったからいいんだけど」
「…もうちょっと落ち込んどきなよ」
「柄じゃないから無理」
そう言ったら佐助はちょっとだけ笑って、確かになと頷いた。
「じゃあなんでやけ食いなんかしちゃってんの?」
「部屋に居たら居候の友達が腫れ物に触るような態度でウザかったから。部屋にも戻りたくないし最悪」
「ホテルにでも泊まれば?」
「今千円しか持ってないんだよねー」
「…ちょっと待って」
佐助はようやく気が付いたのか、コップを握って嫌そうな顔を私に向けた。
少し冷や汗が見える。
「…俺様呼び出したのって、ここの支払いの為…?」
「ゴチ!」
「うわ!この人ウザイ!!」
しばらくうるさく騒いでから、諦めたのか「貸し一つね」と言った。
こいつは馬鹿か。
「貸しなんてすぐ返すよ」
「どうやってさー文なしのくせに」
「泊めてよ、今日」
一瞬、空気が止まった気がした。
佐助は今度こそ驚いた顔をしているけれど、なんて鈍いんだろう。
こんな時、こんな時間に、呼び出すのがどういう事なのかなんて
知らない程純粋でもないくせに。
「ゴム買って帰ろう」