short 2

□今も私を縛るもの
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思えば彼女とは長い付き合いだった


士官学校で唯一私になびかない女だったので、最初の内は堕としてやろうと必死だった。

次第にそんなくだらない事もやめて、面倒くさいが体面上女性が必要な時にはよく助けてもらった。
彼女も恋人はいないようだったので利害が一致していたから。



「また出世してやったぞ」


彼女に軍服で会いに来るのは数年ぶりだ。

それは私が昇進した時で、彼女が悔しがるのを楽しみにしている。


「もう大佐だ」


 




「どうだ、似合うだろう?」


彼女は初めて私の軍服姿を見た時『気取ってんじゃないわよ』と笑った。

どうやらあまり自分には軍服が似合わなかったので腹が立ったらしかった。


「そういえば新しく恋人が出来たんだ。美人で料理も上手い」


彼女は私に新しく恋人が出来る度、いつまで保つかをヒューズと賭けていたな。
私が『そんなに早く別れるわけないだろう』と言ったら二人して馬鹿にして笑って。


「君の得意料理は何だったかな、丸焦げの目玉焼き?」


三人で朝まで飲んだ時、彼女に朝ご飯を作ってもらった事があった。
パンも目玉焼きも丸焦げで、ヒューズと二人で作り直した。

ただ、サラダのドレッシングは絶品だった。


「ああ、忘れる所だった。飲みたいだろうと思って買って来てやったぞ。感謝しろよ」


今まで左手に持っていた紙袋を開けて、彼女に見えるように出してやる。この近くで買った安物のシェリー。


「仕方ないだろう、時間がなかったんだ」


彼女は散々私に奢らせて高い酒を飲んでいたので、こんな酒では満足しない。
 
もちろん私が善意で彼女に奢ってやるわけもなく、女性関係で弱みを握られて、だ。


「また今度時間がある時に君の好きなワインを買って来るよ」


ホークアイ中尉は厳しい人だから、きっとまたしばらくは仕事詰めにされるのだろうな。

それでも時間が出来て、ふと思い出したら必ず来るから。

そう思ってシェリーの栓を抜く。


「それじゃあ、またな」


今はただの真っ白な石でしかない君に向かって、瓶を逆さに傾ける。

半分程残して、君の名前の彫られている右側に置いておくよ。


「君を愛してた」





ああ、君が死んでもう何年も
何年も経つというのに。

何故今も、私は


言えなかった言葉を胸に、君に会いに来るのだろう。



いつだって言えたのに、いつまでも言えなくて







馬鹿な俺を笑ってくれよ





(お望み通り、何度でも)


(そう言った君は、もういない)













『真相』に続く
 
 

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