short 2
□十
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久しぶりに、髪を巻こうと思った。
電源を入れて待っている間、点けたままにしていたテレビでは勝手な奥底を並べ立てたニュースが流れていて酷く滑稽だった。
短い間に纏めようとしているのだろうが、そんな短い時間でその事件の被害者の無念は視聴者に伝わるのだろうか。
伝えようなどと思ってもいないのかも知れない。
それではこの人達の仕事とは一体なんなのだろう。
「…下らない」
時間があれば余計な事ばかり考えてしまう。
そんな事どうでもいいじゃないか。
この人達は予定通り仕事をこなして、終わったら友達や恋人と飲みに行ったりして。
そして疲れて眠ったら、何かに追い立てられるようにまた仕事をこなすのだ。
それで世界は回るのだから、それでいいじゃないか。
指先で一掬い、髪を持ち上げる。
あ、多かったかも知れない。
それでもいい。
コテを温め過ぎたかも知れない。
それでも、いい。
それが何かに影響するだろうか。
そんな些細な事で日常の何かが変わるのだろうか。
「…熱ッ…」
しまった、薬指に火傷してしまったみたいだ。
赤くなっていく薬指を見ながら、電源を切ってコテを床に落とした。
床に焦げ跡が出来るかも知れない。
それでもいい。
それでも、世界は、回ってしまうから。
またこの季節が巡って来た。
有給休暇も、もうすぐ終わる。
連休を取っても店長が何も言わない訳も分かっている。
それを分かって、利用している。
あのニュースは、あんな短い時間で何を伝えたいのだろう。
“あの”事件も、こんな短時間で伝えられたのだろうか。
十年も前の事件だ、もう話題にも上がらない。
日々目まぐるしく過ぎる世界の中で
どれ位の人があの優しい人達を忘れずにいてくれているだろうか。
どれ位の人があの人の哀しみを癒やしてくれたのだろうか。
またこの季節が巡って行く。
来年も巡って、また次も。
そうして堪えていれば、何かを得られるだろうか。
十年前失ったあの眩しい笑顔を超える、何かを。
そうしてまた、世界は回るのだろう。