マウンドのてっぺんで
□Prologe
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――ズドン
そんな轟音を立ててボールがミットに突き刺さる。
わたしは、その球に、心惹かれた。
――同じ中学生に、こんなストレートを投げるピッチャーが居たなんて!
また轟音が響き、わたしたちのチームの打者―鈴本がタイミングの完全にズレたスイングで空振りを取られ、三振に終わる。
無理だ、わたしたちに打てる球では無い。
そう実感した。
わたしたちのチームは地区では敵知らずだった、無意識に、井の中の蛙になっていた。
それでも、スポーツは予測のつかないものだ。
最終回の、たった一つの失策。それがそのピッチャーのリズムを崩した。
ストライクが入らない、二者連続で出したストレートの四球から、わたしの打順が回ってきた。
――初球だった。
ど真ん中に入ってきた、力の無い棒球を目掛けてバットを思いきり振り抜くと、センターの頭上を越えた。
その前の攻撃でそのピッチャーに打たれていた、場外ホームランなんて頭から飛んでいた。一死から、一点差を引っくり返すサヨナラタイムリー。
まるで全国制覇をしたかのような、そんなお祭り騒ぎをするチームメイトの元へ駆け寄る際に、そのピッチャーを、横目で見てみた。
泣くでもない、ただ空を見上げて佇む姿が妙に印象的だった。
――それが、去年の7月頃だった。
「ここか…」
わたしは、入学を決めた聖(セント)タチバナ学園の校門に立っていた。
あの試合を見ていたという、橘みずきに誘われたからだ。
あのピッチャーを誘うべき、わたしはそう断ろうとしたのに、確かに彼女は言った。
――ああ、あの子も来るよ。絶対にね。
別にその言葉を信じた訳じゃない、だけど気になった。それだけの自信をなぜ持てるのかと。
あのストレートが有るのなら、帝王実業高校や西強高校、横浜高校、全国の強豪校の監督やスカウトが頭を下げて来るだろう。
それに加えて、あのピッチャーはコントロールも良い。スタミナも有る。十年や二十年に一人クラスの、天性の才能を持っている。変化球を覚えたら、メジャーリーグの強打者も手が出ないだろう。
全国大会では、あれ以上の球に逢えなかった。心を惹かれるような、目が醒めるような、そんな球が無かった。
だからこそ、あのストレートをわたしのこの手で、受けたい。その時に得る快感を知りたい。そして、リードしたい。
「……行くぞ」
わたしは小さく呟いて、散った桜の花びらを踏みつつ、校内へと歩き出した。
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