マウンドのてっぺんで

□Chapter 1.
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「……あ、」

 新入生でごった返す体育館、長々とした学長の話と共に入学式が終わったのは始まってから一時間が過ぎた頃だった。
 わたしが帰ろうと鞄を手に持ち、教室から出たところで心臓が高鳴る。


――ドクン。



 確かに、あの時のピッチャーと思わしき後ろ姿が視界に入って来た。
 一見細身にも見える体つきは、実際に間近へ行くと鍛えられていることが分かる。
 その上、長身で生まれつきなのだろう、腕も常人のそれより少し長い。
 そして、その左腕から繰り出されるは、超高校級の凄まじいストレート。
 しかも、コントロールも良いと来ている。
 わたしを覚えているか、と声を掛けるために近寄りかけ、直ぐ隣に居る女子にそこで初めて気が付いた。


 ――水色の髪。



 後ろで結い上げられた艶やかな髪、誰が見ても美人と答えるだろう顔立ち、とにかく見えるところ全てが完璧だった。
 時たまクスクスと笑う笑顔は女のわたしでも可愛いと感じ、そしてその横でぶっきらぼうに返事をするあのピッチャーも、どことなく機嫌が良い雰囲気を纏っていた。
 わたしが立ち尽くしていると、二人にわたしを誘った張本人―橘みずきが走り寄る。
 そして二言、三言交わすと急に辺りを見回し、わたしに気付くとニッコリと笑う。

「聖!こっちこっち!」

 あのピッチャーがわたしの方に顔を向け、途端に眉を潜める。
 当たり前か、逆転タイムリーを打った相手にいきなり笑顔を見せる投手は居ない。そしてみずき、いきなり呼び捨てにするな。(わたしは声に出してはいない。)
 わたしの考えを察していないのか、笑顔で手招きを続けるみずきに小さく溜め息を吐き、三人の元へ駆け出した。
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