小説(SKET DANCE)
□不器用に優しくてー後編ー
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「お…邪魔します」
「あぁ、適当に」
ヒメコが部屋に上がると、希里はソファの方を指差し、ヒメコに座るよう促してからキッチンへ向かう。
ソファは2人掛け用のロータイプでヒメコが座ると包み込まれるように体が沈んだ。
「おぉ、このソファええなぁ」
「…そうか」
希里は楽しそうにソファに座って伸びをするヒメコを横目に見る。
一方ヒメコは希里の部屋を興味深そうに観察し始めた。
(男の子の部屋って感じやわ…)
アパートの見た目と違い、中は黒を基調としたシンプルでオシャレな部屋だった。
ソファの前には小さなガラステーブルがあり、アクセサリートレーが置いてある。
(シルバーアクセ好きやんな)
奥の本棚には整理された本の他に、小物や香水も並んでいた。
「あ、香水…」
「香水?」
ヒメコが口に出すのと同時に希里が両手にマグカップを持ってきた。
希里はカップをヒメコに渡しながら隣に腰を下ろす。
「香水がどうかしたのか?」
「ん、いやな、アンタの上着ええ匂いしたから」
「あぁ…」
「今日はつけてへんの?」
「!」
ヒメコは匂いを確認するため希里に顔を近づける。
「…いや。家にいるだけだし」
「そらそーやな」
希里の顔がかすかに赤くなっているのには気づかず、ヒメコは笑いながらカップを口に運ぶ。
「おっ旨いなコレ…なんや?初めて飲む味」
「ほうじ茶のミルクティ」
「へぇ〜オシャレなやぁ、アンタ」
ヒメコが希里とカップを交互に見ながら感心する。
「…。これ食っていい?」
希里がヒメコにもらったクッキーを出す。
「おぉ、えーで。甘さ控えめやから合いそうやな」
「そう思った」
「なんや、甘いもの苦手かもって考えてたんやけど」
「別に嫌いじゃねぇ」
ヒメコは希里の意外な一面に楽しそうに笑う。
パク。
「…」
「ど、どう?」
「…うまい」
「そうか〜良かったぁ」
ヒメコは笑顔でほっと胸を撫で下ろす。
「こーゆうの初めてもらった」
「そうなん?モテそうやん。バレンタインとか」
「中学ん時はそんなんなかったな」
「そ…か」
ヒメコは先日の会話を思い出す。希里は学校ではあまり人とは関わってこなかったのだ。
「こんなんいくらでもアタシな作ったるわ」
「…」
希里が黙ってヒメコを見つめる。