小説(その他)
□春の夜風
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流川は部活が終わった後も自主練を行うのが日課だ。
1人の時もあれば「今日は空いてるから」と彩子がボール出しを行い、それにくっついて宮城や三井が一緒に残ることもしばしば。
そして…
最近は、彩子の計らいによって新人マネージャーの晴子が彩子の代わりにサポートに入ることが多くなった。
*****
時計の針が8時半をまわった頃、流川が一息つく。
「そろそろ上がる。」
「うん、お疲れさまでした。はい。」
晴子が用意していたドリンクとタオルを手渡すと、どうも、と軽くお礼を言って受けとる。
今日の練習はいつも以上にハードで、宮城たちは「腹へった〜ファミレス行こうぜ」とさっさと連れ立って行ってしまい、流川と晴子は2人で残っていた。
1年前にはこんな状況であれば晴子は緊張で頭は真っ白だっただろう。
(こんな2人きりでいれるなんて夢にも思わなかったわ)
ふーっとタオルで汗をふく流川の横顔を見つめながら思う。
ただ練習を手伝うだけであっても晴子にとっては大切な時間だった。
「送る」
「えっ?」
ぽわぽわと考えごとをしていた晴子に意表をつく流川のひとこと。
急なことにしどろもどろになって返事ができないままでいると、流川は先に部室に戻って行ってしまった。
(る、流川くんが送ってくれるなんて)
1人になった体育館で晴子は空気が抜けたようにへなへなと座り込んだ。