さん

□BLM
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グラスを傾け流し込めば、口いっぱいに香りが広がった


「うまい…」

「だろ」


その男はグラスを傾け慈しむような視線を送る


「俺のお気に入りなんだ」


口元をつりあげ、笑った
何時もと変わらないがどこか悲しげで、胸が締め付けられたように痛んだのは気のせいじゃないだろう。


「名前は…」

「ん?」

「この酒の名前は」

「オールド・パル
古い仲間、懐かしい仲間という意味がある昔から飲まれているカクテルだよ」

「懐かしい…仲間…」


またグラスのなかの酒を口へと迎え入れる。
その香りは俺の機体を満たしていく


「お前の名前は?」

「俺の?」


困ったように笑んで、グラスの縁をいじりながら小さく呟いた


「ブルース」

「ブルース?」

「そう。それが俺の名前」


回路内で何度も繰り返す。


「はじめて会った気がしない」

「そうか」

「ずっと傍にいた、そんな居心地良さがある
…なぁ、お前ははじめに久しいと言った。本当はどこかで会っているんじゃないか?」

「…メタル」

「なんっ…、」


気づけば眼前にブルースの顔があった
口に広がるオールド・パルの香り。
柔らかく触れる唇。
デジャヴだろうか、何時の日かもこんなことがあったような気がした


「…すまない、今日は帰ろう」

「まて」

「それじゃあ」

「ブルース!!」


必死に呼び止め背後から抱きしめた
直感が離してはならないと俺に語りかける。
離してしまえばきっとこいつはもう二度と俺の前に姿を現さないだろう。

それ以前に、

俺はこいつから離れたくないと、強く想った。




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