DRRR
□ぬるま湯のようなこの海で
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髪を撫でて 頬を撫でて 優しく抱きしめて 耳元で静かに囁いて
額に頬に鼻に唇に そっとキスをおとして
緩やかに甘やかしてくれる君が、とてもありがたかった
「青葉君」
「ハイ」
青葉の綺麗な顔が蕩けるような笑顔を浮かべて、体育座りで縮こまっている帝人を振り返った。青葉は向き合っていたPCから離れ、帝人の隣に膝立ちになる。
膝立ちのまま青葉は愛おしげに帝人の髪に触れキスを落とすと、帝人をギュウッと抱きしめた。
「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」
「眠い……」
「じゃあ、毛布を取って来ます」
「毛布はいいよ、暑い」
「僕も離れた方がいいですか?」
「青葉君はここにいて」
青葉の腰に腕をまわして帝人が呟いた。青葉は心得たとばかりにその頭を撫でる。帝人は青葉の好きにさせながら、うつらうつらと船を漕ぐ。
幼児の様に、しかも後輩に甘えている自分は、何て情けないのだろうと帝人は自覚している。
しかし、いくら情けなくともみっともなくとも、青葉だからと帝人は一蹴していた。
この子は、ただただ無償の愛をそそぐ清らかな優しいだけの子じゃない
青葉は帝人を利用しようと近づいた。自分達が広い広い場所で泳ぐための器が必要だった。その結果、ミイラ捕りがミイラになる。
青葉は帝人に心酔した。ただ青葉は、自分の恋路の相手に捕らわれても、うっとりと夢見心地のまま全てを忘れるような愚者ではない。だから帝人は、青葉に罪悪感を感じる事なく甘える事ができた。
それこそ天使のように慈しんで帝人に触れる青葉だが
帝人は青葉が愛しさだけを込めた熱っぽい眼差しだけで自分を見ていないと、とっくに気付いている。
飢えた獣の様な獰猛な光に踊らすこともあれば
憐憫に駆られた悲しい目をすることもあり
男の欲を孕んだドロリとした視線も感じ
暗い歓喜に彩られることもあった
青葉は男の目で帝人を見ていた。恋する男とはと問われれば、帝人は真っ先に青葉を思い浮かべるだろう。青葉といるようになってから、帝人は少しずつ浸食されていく感覚に陥る時がある。
以前ならもっと、違うものを思い浮かべていたはずだから
「青葉君」
「ハイ」
「青葉君」
「ハイ、帝人先輩」
君はどうしたい?
青葉は虚を突かれたように目を丸くする。目を丸くして、笑った。
「僕は、先輩の特別です」
「………」
帝人は肯定しなかった。
ただの赤の他人とは言えない。だが、何の“特別”なのか帝人には一概にこうとは言えなかったからだ。しかし、青葉は意に介さなかった。
「それでいいんです。欲を言えばもっともっと、帝人先輩が僕に依存すればいいのにって思うけど、こーゆーのもいいんです」
「そう………」
「僕は、帝人先輩の逃げ場になりますよ。お望み通り」
青葉が浮かべているのは、間違いなく優しい微笑みだった。髪を掻きわけ、帝人の額に直接落とすキスも優しい。
「ありがとう」
ごめんね
本当は足りないと君は泣いているんでしょう?
でも僕は僕なりに
君が好きなんだよ